その涼しさは紫龍の元に突然とやってきた。
 寝苦しい夜であった。気象庁の予言は相変わらず天の邪鬼で、

 外れてほしいものにカランカランと大当たりの鈴を鳴らす。
 不快指数120%。熱帯夜である。

 紫龍はごろりと何度目かの寝返りをうつ。
 睡魔は在るが眠る気になれなかった。高原育ちである。

 べたべたとしたまとわりつくような暑さは、一般人以上に慣れるものではなかった。
 ついでにエアコンは地球のために、その活動を休止していた。

 ―――夏の間だけでも帰れたらな、

 生真面目ゆえ実現不可能な夢想で、気を紛らわしているそんな時。
 気が付けば紫龍は不思議な冷気に抱かれていた。

 冷気といっても、単に冷たいわけではない。
 清涼とした蒼い海のような、そんな感じの心地よい空気であった。

 うっとりと目を閉じれば、波の音まで聞こえてきそうな。
 心の痼りまで取り除いてくれそうな、ひんやりとした不思議な宇宙。

 が、その脈絡のない悦に呑気に身を任せられる程、
 紫龍は能天気ではなかった。

 なんでだろうと、持たなくても良い疑問がぱちりと目を開ける。
 するとそこには氷河がいた。目の前が氷河だった。

 しかも、しっかりと自分を抱きしめていたりする。・・・。
 
その状況を改めて認識した紫龍の悲鳴は、しかし、事前にコトを察知した
 氷河の手の平に吸いこまれてしまった。

 「夜中に騒ぐんじゃない、皆、起きる」

 人のベットを横取りした主は、相変わらず説得力に欠けている。

 「・・・何でお前がここにいるんだ?」

 手を放してもらい、漸く、紫龍はそれだけが云えた。顔がひそかに引きつって
 たりする。それに対する氷河の様子は、対照的なまでに冷静であった。

 「お前が呼んだから」

 「・・・」ひとしきりの沈黙の後、紫龍が叫んだ。

 「いつっ?」

 「先刻」何でもないことと、ごく当たり前に紫龍に告げる。

 「お前が暑いって意識を俺に飛ばしたんじゃないか。違うのか」

 言われてもまる覚えがでなかった。
 確かに暑い、暑いとぼやいていたには事実である。が、

 「別にそれをお前に飛ばしたわけではないっ」

 「でも、涼しくて、気持ち良かっただろ」

 氷河は自分の小宇宙を用いて、自らの体温を零下にまで下げる事が出来た。
 それはちょっと羨ましいと思う。けれども、

 「だったら自分一人でそうしてろ。人を巻き込むんじゃない。
 余計なお世話だ。莫迦」

 「いいではないか。別に他人じゃないんだから、」

 云いかけた瞬間に思い切り殴られた。

 「他人だ!!」キッパリ云い切られる。目が真剣だった。

 「絶対、他人だ。赤の他人だ」

 「何もそんなにムキにならんでも・・」と氷河はつぶやいた。

 「仲間だし、兄弟だし、同胞だし、血も繋がってるし、

 肉体関係も一つあるぞ」と、云いかけて氷河は止める。

 あくまで紫龍は本気だった。うっすらと浮かび上がった青い血管。
 上気した薄紅色の頬。普段からは考えられないくらい、

 ぽんぽん辛辣な毒の花が飛び出してくる。
 小宇宙さえも戦闘体制で、その背には鮮やかな龍の姿が踊っているだろう。

 傍目から見れば、本当に怒っているかもしれなかった。だが、だから言葉を
 止めたのではなかった。一呼吸を置いて、今度は氷河がまじまじと紫龍を見る。

 「もしかして・・お前、照れてるだろ?」
 
 「えっ?」氷河のつぶやきは幸運なことに、紫龍に聞こえなかった。

 「悪かった」と、氷河が急激に云った。
 
 あまりにそれが急で突拍子だったので、
 紫龍は思わずまじまじと氷河を見てしまった。

 ぱくぱくと酸欠状態の金魚みたいに。こんな時に口にすべきささやかな言葉を
 紫龍は知らない。

 すべき事をされてしまい、心底、困ってしまった紫龍の顎をとって氷河は
 キスをした。その体ごと。心ごと。

 「なっ、なにすん・・」そして反撃を食らわないうちに、耳元に熱く。

 「悪かったから。なぁ、お詫びにもっと涼しいことしてあげようか」

 「えっ?」噛みしめられた唇がこじ開けられ、パジャマのボタンがゆっくり外され、

 肌にひんやりとした外界に曝される。熱いことの間違いじゃないか。

 2度目のキスを強制されながら、紫龍は頭の隅でそう思ったが、
 なぜか反論はしなかった。

 冷い吐息が唇に耳に素肌に感じる。さわさわと。離しがたい温もりだった。
 水晶のようなその透明な冷たさを全身に享受する。

 それでも頬はさっきより赤い。切なげな声が紫龍から漏れ始める。
 それをベットに押しつけて、氷河は青白い龍に口付けをした。

 そして、紫龍をそのまま背中から抱き寄せる。

 「ちょっと、熱い・・」くぐもった声が不服を訴えた。

 「なんで?」紫龍の体を隈無く、自身で埋め尽くしながら氷河は問うた。
 
 「俺の体温は零下以下で、それでこんなに密着してるんだぞ」
 
 「・・熱い」紫龍は苦しい息の下それだけ答えた。

 「あっ・うん、・・・ちょっと、やだっっ」

 「何が?」その意地の悪い問いに何も云えない。

 ただ舌を絡めて、熱い口付けを返すだけ。それしか答えられなかった。

 

 「どうだ。すっきりしただろう」逆転満塁ホームランを打った

 高校球児のような爽やかな笑顔。紫龍はただ恨めしげに氷河を見た。

 ―――莫迦って云った事を根に持っているんだっ。

   けれど、それも云い損ねた短い台詞のように。
   紫龍はただ溜め息をついただけだった。



   何時書いたかすっかり忘れてますが、
   「コンパイラ」というマンガが描かれた頃だと思われます〜
   (そこからぱくったから)って、冷却ワザが使える女の子が男の子を
   冷やしただけだけどね。其処から先は氷河の独壇場〜

   何か紫龍は今と性格と違うような気がしますが、
   結局、氷河にいいように振り回されているところは一緒ですね〜

   これもチラシからです。私、夏に氷河紫龍書くの好きですね。
   なんとなく、涼しい感じがするからでしょう。
   で、あまりにいちゃいちゃして、暑苦しくて耐えきれなくなると、
   シュラ紫龍に走る〜かわんねえなあ、今も昔も。

    
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