いつものようにオヤスミナサイ、だけだったはずのキスが絡まって、そのまま布団になだれ込む時点では消されているはずの電気がこうこうと点いている。就眠に行われる儀式には慣れたつもりであったが、紫龍は流石に異を唱えた。
「灯りが点いているんだが……」
「そうだな」氷河は紫龍のパジャマの釦を外して、すでに胸に盗聴を開始している。
「あの、恥ずかしいんだが」
「綺麗なんだし」
「あn―」

 すでにだぶだぶのズボンの脇から氷河の手が入り込んで、紫龍の中心を指でまさぐっている。一生懸命、両手で身体を支えて、氷河の好きにはさせないように頑張ってはいるが時間の問題である。至らなかったタメシはまず無い。指は紫龍の身体を散策し、唇は近付いたり、離れたりを繰り返している。氷河は真剣そのものだった。成る程、灯りが点いていると表情がよく判る。では、熱に帯びて浮かされていく自分は氷河にどんな表情を見せているのだろうか。
────想像も出来なかった。恥ずかしさに、いっそ逃げてしまいたくなる。

「────気になるか?」
 こくんと、頷く。
「だったら、目を瞑っていろ」
「瞑ってろって……、そうゆう問題じゃ、」
「そうだな」一瞬だけ動きを止めて、氷河にしては珍しく素直に考え込む。────不吉な予感がする。そして、いつものように当たってしまった。
「じゃあ、目隠しでもするか」

 云うより素早くアイマスクが紫龍に掛けられる。何でそうなるんだとか、どうして持っているんだとか、疑問を挟む余地もない。突如、目が見えなくなった時より暗闇に放り込まれて紫龍は狼狽する。
「ちょっと、氷河」
「何だ?」
「恐いんだが……」
「俺が居るのに?」

 お前がとは云えない。そうしている間も氷河の視線が自分をなで回している。体温が3度位、跳ね上がった。
「恥ずかしい、氷河……」
「何でだ?見えないのに」
「いや、お前は見えているんだし」
「じゃあ、俺も目隠しするからな」
「……それって、灯りを付けている意味が無いじゃないか」
「俺が信じられないのか?」

 人の善意を、特に紫龍は氷河を信じたい。そして、氷河はたった一つの真実があれば、全ては昇華されると思っている。後一つ、嘘も方便は氷河の好きな諺である。
「細かいことを気にするな」
「気にするって」
「俺は気にならないぞ。お前を愛しているから」

 そう云われて紫龍は自分は何故、恥ずかしいんだと思う。氷河と同じことが紫龍は出来ない。氷河が自分を想ってくれる程、自分は氷河を愛してないからだろうか。そのつもりはなくても、氷河はそう受け取るのだと想うと、紫龍は哀しくなる。そして、氷河は判っているくせに紫龍につけ込む。
「────お前、Sexって恥ずかしいって思っているんだろ」
「えっ、まあ、基本的に」
「じゃあ、いつもと同じじゃないか」

 確かにそうとも云えなくはない。だが、納得なるのもためらいが残る。紫龍が考え込んでいる内に氷河はどんどん先に進んでいった。氷河の舌が紫龍の真ん中で音を発てている。ぴちゃとぴちゃと大きな音がやけにはっきり聞こえていた。
「お前・・・」と、氷河がつかの間、顔を上げ────手は動かしながら、意地悪く囁く。
「いつもより大胆だぞ」
「えっ、そうなのか……、あん」
「云われる前から、足開いているし」
「だって……、加減が判らなぃ……」

 視覚が遮られている分だけ聴覚や触覚が鋭敏になっているらしい。耐えかねて、耳を塞ごうとした手が氷河に押さえられる。表情は判らない。が、力強い手だった。
「ついでに縛ってみるか」
「────そのついでは何処に起因しているんだ?」
「いーじゃん、たまには。跡が残らないように縛るから」
「ちょ、やっぱそれは止めた方が……」
「なぜ?」
「だって、おかしいよ。そんなのぉ」

 氷河が耳元に息を吹きかける。紫龍の特の弱い所。あんっと、自分でも予期せぬ程、甘い声。そして、駄目押しに氷河が囁く。
「そんなことないって」
 手首と手首をハンカチで合わせる。引きちぎろうとすれば簡単に取れるだろう。今日の氷河にはなぜか逆らわないほうがいい気がした。それでも手の自由を奪われ、視覚を遮られ、もちろん裸は紫龍を酷く心細くした。
「ひょうが?」

 だが、いつもより不安に彩られた声は換えって氷河の加虐心に火を付ける。普段だったら、絶対に取らせないケモノの姿勢にさせると、紫龍に自分の猛るモノを近づける。
「紫龍、ココが何処だか判るか?」
「えっ、うん」
 いつも自分の中に入っているナイフ。氷河の一番大事な所。
「銜えてみるか?」
「────うん」頷いてみたが、どうすればいいのだろう。
 戸惑っていると、氷河の方から、押し込められた。
「歯を立てるなよ」
「……うん」

 ソレに口付けしてみる。たくさんのキスで労ってみる。それから……、どうしてくれたっけ?懸命に思い出す。氷河の動き。自分にしてくれること。ただ、しゃぶるだけではなく、包み込ん口先でしごき、そっと指を絡める────はできない。では次はどうなったっけ?考えようとしてもムダだった。氷河は何時だって、紫龍を自分の色に染め上げていく。思考を奪い、氷河のことだけを考えるようにしてしまう。一瞬でも自分を忘れてしまう恐怖が薄れていく、ソレは新たな恐怖と全く正反対の感情を紫龍にもたらす。どちらにしても、理性的な思考とは逆を向いていた。今、紫龍が再現してしまったのは柔らかい唇。滑らかに動く指。吐息。名前と愛を告げてくれる優しい声。包んでくれる肌。全て五感を刺激し、この瞬間にも紫龍を熱くさせる。

「────口、止まっているぞ」途端、氷河の叱咤が飛んだ。
「それとも堪えられないのか?」
 紫龍の見えない目が氷河に向けられる。
「……今日、何かお前、ヘンだ」
「だとしたら、お前の所為だ」
「俺の?」
「俺をおかしくするのは、お前だけだからな」
「────俺も、お前だけだ」

 氷河が紫龍を抱きしめる。そっと。その瞬間、紫龍は判ってしまった。氷河が微笑んでくれていることを。いつもの氷河だ。そう思って紫龍は安心する。素直に氷河に身を任せる。紫龍をしっかり抱きしめて、氷河は囁いた。
「紫龍、どうして欲しい?入れるか、それとも弄るか」
「お前が、いい」と、紫龍は答えた。その唇に氷河は口付ける。「うん」

 氷河は自分の上に紫龍を誘導して、後ろから貫く。抱きしめる。下半身を焼く鋭い痛みと裏腹に、氷河の手は優しく紫龍を導いてくれて、紫龍は笑顔になる。氷河の少し冷たい体温が段々、熱くなっていくのが判った。少なくとも氷河も自分を欲っしている。嬉しい。汗の匂い。誰でもない、自分だけのモノ。嗚呼、自分の場所なんだと、ほっとして、紫龍は全てを氷河に委ね、氷河の全てを受け取った。
 



 目隠しといましめを取られた紫龍に最初に飛び込んできたのは、氷河の心配そうな顔であった。
「すまなかったな」と、氷河が云った。
「単なる八つ当たりなのに」
 氷河は本当は紫龍が自分でなくても良かったということを知っている。紫龍が焦がれていたのは無条件の温もりだった。手を繋ぐだけで良かったのに、Sexという快楽で氷河は紫龍を振り向かせた。

 結果的に氷河の行為は間違えではなかった。ベット以外も同じ時間を過ごすことによって、紫龍は人間らしい感覚を芽生えさせていった。そして、紫龍は相変わらず綺麗な感情であった。原罪さえも背負わずに生まれてきたのだろうか。羽根を付けたら何処か遠くへ飛んで行ってしまいそうな紫龍に、氷河は時々イラダチを覚える。その紫龍の丸ごと全てに惹かれているはずなのに、時折、感情が云うことを聞いてくれないのだ。
「────お前が今日、怒っていたのって、もしかして俺が何も云わなかったからか?」
「覚えていたのか?」
「忘れるはず無いじゃないか」

 二人で初めて雨の音を聞いた日。夜の雨が二人を丸く包み、互いの胸の中で眠りに付いた夜。唇だけが触れる神聖なキス。独りじゃ無くなった日。あれから何度、長い夜を超えても、忘れられるはずがない、もうはっきりと刻まれてしまったのだから。
「でも、二人の記念日だから、そのおめでとうって云うのもヘンだし、何て云って良いか判らなかったから……、やっぱありがとうかな。お前が傍に居てくれて」
「こっちの台詞だ、紫龍。ありがとう、俺に付き合ってくれて。愛している」
「うん、俺も。────後、よろしくかな」深々と紫龍は頭を下げた。

「早いな、あれから一年なんて」
「いや、紫龍……俺達、三年目突入」


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