控えめで慎ましやかなのは美徳に違いないが、度を超すソレは時折、シュラを悩ませる。紫龍に似合うコートや靴など、彼のためにしつらえた、
あるいは吟味したモノをプレゼントすると、ありがとうございますと、受け取ってはくれる。だが、どこか困った顔が印象に残る。時には遠回しに辞退されることもある。
「今、持っているもので十分ですから」と、云うのは紫龍の口癖だった。
「だって、アナタが居てくれる」と、可愛いことを云われるのと悪い気はしない。いや、

だからこそシュラは紫龍をピカピカの王冠を頭に乗せたお姫様、その表現が一番しっくり来るのであえて、そう宣言するのだが、
そして、自分は仕える臣下のごとく振る舞い、彼に人生の喜びを、ささやかな幸福を捧げたい。
そして、汚い現実も人生の苦い真実も彼からは遠く引き離しておきたいのだが、

「ムリだろうね」と、鋭く客観的判断を下したのは美貌の旧友。
「これから先、あの子がコンデスミルクと関わり合いを持たないで、人生を過ごせるとは到底、思えないな。
あの子の側には甘味女王やお腹を空かせた小僧どもが纏わり付いているんだし、それに人は一度覚えた蜜の味は忘れられない物だよ」
「蜜、つうかコンデスミルクなんだけどな。あっはっは」と、笑い飛ばしたデスマスクをシュラとアフロディーテはいつも以上に冷たい視線で見つめた。
「誰のせいで本日のお茶会が第24回ドラゴン紫龍君の幸せについて考える会になったと思っているんだ」

「だから、諦めてゲロればいいじゃないか。まだ、傷は浅いんだから」
 しかし、デスマスクの弁はいつものように、いや、それ以上にピラニアンローズとエクスカリバーの餌食になった。
「てゆうか、そもそもお前のせいだろうが。紫龍がチューブ入りコンデスミルクを直飲みしているの。
あの小さな口を吸い口をちゅうちゅうするのを、愛おしそうに、時折角度を変えて、
一生懸命嘗め尽くす、まるで俺の―――――」と、聞きたくもない、友人と小僧の特異な性生活を聞きたくなくて、デスマスクは敗北を認めることにした。

「ああ、そうだよ。この前、チューブ入りのコンデスミルクを見て、『コレなんだ?』と、
聞くから『コンデスミルクだよ。キャップを開けて、チューブに吸い付いて楽しむんだよ〜。
――――なんて、嘘ぴょん、ばーか、世間知らず』
って、云う前に『おいしい』って目を輝やかせて、ちゅうちゅうやっていて
『世の中にはこんなに美味しい物があるんだな。シュラがいつも云っているんだ。
美しい人生はささやかな喜びで紡がれるものだぞって。今、それが初めて判った気がするぞ、デスマスク。ありがとうな』って、云う奴に、どうして本当のことが云える?
云えたか?俺だって、羞恥心ってもんがあるんだよ。やっぱ云えねえよ。
ありがとうって、云われちゃったしさ」

 二人の男達は、今更とか、珍しいとか、女神が有給くれるみたいとか、遅すぎるとは云わなかった。
シュラは紫龍の言葉に感動し、噛みしめていたし、アフロディーテも納得していた。
あの子供には、人を正しい道に導く天使のような所がある。
ましてや、こう見えてデスマスクが本人が思っている以上に善人で人が良かった。
ただ、そんな自分を認めたくなくて、大人げなく、子供に楯突いているに過ぎないのだ。
その子供が、素直に幼い表情を見せれば、普段は忘れたことにしている”大人の自分”を思い出したとしても、おかしくなかった。
とはいえ、問題は何も解決してなかった。

「――――ああ、真実って苦いな。
いや、皆、ボンビーが悪いのか?」
 デスマスクの言葉に珍しく頷きかけた二人であったが、すぐに顔をしかめた。
「結局はそうゆうことかもしれないが、しかし、もう少し言葉を選びたまえ」
「ボンビーをボンビーって云って、何が悪い!!そうゆうのって真実から目を背けるってことだぞ」
「あの子があの子にはそんなダイレクトな言葉は似合わないということだ」

「確かにそうだな。――――清貧とかはどうだ」
「ああ、流石、シュラはよく判っている」
「にしてもよぉ〜何であのガキ、こんなにしみったれなんだ」
「その表現もあの子には似合わないが、努力は認めてやろう――――」
それから、アフロディーテは彼にしては珍しく寝起き以外にその美貌を憂いに乗せた。
「施設育ちだっけ?」

「あまり贅沢をしてなくてもムリはないな。
その後は城戸の屋敷で、百人の兄弟達と共同生活、誰も彼に特別の注意を払ってくれるでもなく、……それから、五老峰か」
「何にもない、山奥だったしな」
「だが、聖闘士候補を育てるなら聖域から奨励金が送られなかったっけ?」

「ああ、でもそれは、どうせ反聖域派の活動資金になるくらいなら、薔薇園の費用にすると、云ってなかったか、ピスケス殿」
「君だって、あのジジイはかすみを食っているんだから、死に金に使われるより、オレが生きた金に使ってやるって、
先物取り引くの逆相場を張り続けていただろう、カプリコーン殿」
「俺は勝って、儲けて、金庫を潤したがな。
尤もここに、その金をラスベガスの出張で、そのまま休暇取るぜぇ、……ルーレットで擦ったから、金寄越せ〜って、
じゃないと内蔵を売らないといけないからって、国際電話をかけて来た奴が居たと思うが、気のせいかキャンサー殿?」

「まあ、この過ちに関して責任の所在をなすりあいしても、
失われた時間は戻ってこないということで」
「あっ、逃げた」
「大事なのはあのガキが真実を知った時に恥をかかなきゃいんだろうが」

「そうだな」と、珍しくシュラがデスマスクの意見に同調する。
「あの子が傷つく真実なら俺は抹殺する。
あの子がいたたまれなくなったり、もじもじしたり、
こっちを向いて泣き顔を見せるのは俺だけでいい。

それがむしろ俺の使命。俺の生き様、この命が燃え尽きる迄、いや、燃え尽きたとしても、俺はあの子を護り続ける。
その為に、俺は何でもしよう。鬼とか鬼畜とか呼ばれてもな。――――とぅ」と、席を立つやシュラはいなやいずこかに消え去った。
ふと、隣を見るとアフロディーテは滝涙を流している。
「って、何?奴、何処に行ったんだ?」
「決まっているだろう。シュラはあの子に禁断の奥義を、
コンデスミルクSexを教えに行ったんだ」

「……はい?」
 その初めて聞く、いや、二つとも知ってはいるが合わさったのは初めての男は、まだ、イマイチ事情が飲み込めないでいた。
恐らく相当、間の抜けた表情をしていたのだろう。アフロディーテが続けた。

「君は、諸悪の根源のくせにコンデスミルクSexも知らないのか?
全く、だから、色々垂らしてやるのだよ。
コンデスミルクを、あそことか、あそことか、
アレとかに。


そうすれば、いくらあの子でも二度と人前でコンデスミルクを食べようとは思わないだろうからな。一種の荒療治だ。
シュラは甘いものがあまり得意じゃないくせに、あえてその道を選ぶとは、―――――あの子のことを本当に愛しているんだな」
と、持っていたハンカチでくしゅんと鼻水を噛み、アフロディーテはもう一度、涙を拭った。

そのことに関しては異議を唱えるつもりは全く無かったが、
「なんか釈然としないんですけど」

「いちいちうるさいな、君は。そもそも身から出た錆。As a man sows, so shall he also reap.自業自得だよ。
あの子につまらないちょっかいを出すからいけないんだ」

「へいへい。肝に銘じておきます。全部、俺が悪いんですから」と、返事はしたもののイマイチ全ての因果関係が理解できなかった男が罪を悟り、
泣いて悔い改めるのは、
例のいけすかない小さな子供がスーパーで頬を染めながらも、
しっかり、買い物かごにコンデスミルクを入れるまでの、もう少し後の話。


Fin









女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理