紫龍としては細心の注意を払ってベットから抜け出したつもりだったが、無造作に投げ出されたシャツに袖を通そうとしていると、後ろからその手を止められた。
「まだ、いいじゃないか。どうせ明日には降臨祭で女神様ご一行、こちらに入ってくるんだろ」
「その前にお誕生会があるんですよ」
 シュラに脱がして貰ったシャツを今度は自分で身につけながら、紫龍は答えた。
「バースデー・イブですか。家族が集まって”沙織さん”のお誕生会があるんです」
「何だ、そのバースデー・イブってのは?」
「日本の伝統だそうです。何でも未婚の娘さんは前夜祭と生誕生日と後夜祭を行わないと、お嫁に行きそびれるんですって」
「お前、本当に可愛いな」
 何処かで聞いたような話が適当に混ざって、ブレンドされた都合だけが良くて、根拠の云われもなさそうな作り話を真に受け、あまつさえ沙織が白いウエディングドレスが似合う花嫁に成れそうにないのは、怠ってしまった行事のせいではなく、本人の性格が起因しているというのに、真摯にヨタ話を受け止めている。紫龍は奇跡のように純白だ。と、いって人を疑う術を知らないのではない。彼は自分の信じた人間を盲目的に受け入れるのではなく、柔軟に彼らの考えを取り込み理解するように勤める。それがどんなに理不尽なことであってもだ。
 可愛い。わき出る欲望に任せて、シュラは紫龍をぎゅっと抱きしめたが、腕の中の恋人はなぜか浮かない顔をしていた。
「────何かあるのか?」
「いいえ」と、答えようとしたが紫龍は思いとどまった。裸の自分をシュラにさらけ出してから、彼に関しては隠し事が出来なくなっている。すぐに見破られてしまうのだ。
「でも、本当に大した話じゃないんです」と、前置きしてから紫龍は云った。
「────誕生会って恥ずかしくないですか?」
「本当に大した話じゃないな」
「そーなんですけど」紫龍はめげずに訴えかける。
「ご馳走が並んで、ケーキ食べて、プレゼントを一人だけ貰って、歌を歌って貰って、でも、一人ぐらいつっぱねる奴が居て、皆で責め立ててと、……恥ずかしいじゃないですか?」
「歌位どってことないだろうが。ストリップは平気なくせに。しかも、敬愛している女神を称える歌だぞ」
「彼女は良いんです。女の子なんだから。でも、このまま順当にいけば、10月には俺の誕生会なんですよ」
「────ああ」
 漸く、話が見えてきたがやっぱりシュラには理解しがたかった。
「良いじゃないか、別に」
「男なのに恥ずかしくありませんか?」
「────そうか?」
「だって、皆が俺を祝ってくれるんですよ。プレゼント買って、ご馳走食べて、ワインで乾杯するんです」
「お前だって、他の奴らならそうしてやるんじゃないのか?」
「でも、誕生会なんて子供がするもんですよ」
「ガキだな」一生懸命力説する紫龍にシュラはそう呟いた。
「そう云い切っちまうのが、まだガキな証拠だ。どうせ女神のアイディアだろう。だったら、素直に従っておけばいいじゃないか。聖闘士なら女神の望みを最大限に叶える使命があるし、百歩譲って単なるワガママでも、女のワガママを聞くのが男の甲斐性だぞ」
 それに口にはしなかったが、一度決めたことは撤回する沙織ではないコト位、紫龍にだって判っているはずだ。なのにこの頑なさはどうしたことというのだろうか。紫龍は明らか迷って
いるし、────  照れているのか。今更?どうして?
「初めてですから」
 観念したのか紫龍は呟いた。囁くより小さな声だった。シュラでなかったら、聞き取れなかっただろう。
「五老峰じゃやらなかったのか、そーゆー行事」
「お正月はやりましたが、別に誕生日なんて」
「ハウスではやりましたけど、個人のではありませんでしたから」
「確かに初めてって恥ずかしいよな。イロイロと」
「えつ?」
 シュラの顔は思い切り悪いことを考えている顔だ。着たばかりのシャツがもう一度、脱がされて、紫龍の背中を白いシーツが抱き留める。
「でも、一回やっちまうと、そんなこともないよな。────次で17だっけ、お前」
「そうですけど……」
「じゃあ、17本の蝋燭をケーキの上に立ててと……」
 シュラはベットの上に投げ出されている紫龍の身体に強く唇を押し当てた。
過敏な肌理の細かい肌の上に、赤い灯火が点灯する。
「初めにケーキの上の蝋燭に火を付けるんだ。ほら、すぐ赤くなるだろう」
 いつもと同じ始まりに身体を堅くしながらも、紫龍は律儀に反論した。
「シュラ、俺はケーキじゃないっ……」
「でも、甘くて旨いぞ。────蝋燭はすぐに解けちゃたみたいだがな」
 シュラが17個の印を付ける頃には、紫龍の身体は全身に朱が走っていた。
「火が点いたら、吹き消すんだ。願い事をしながらな」
た長いキスが終わる頃、消えるはずのキャンドルの明かりはまだ燻っていた。
「お前、本当に火がつくのが早いね。紙みたいだ」
 それは自分のことを云っているかとシュラは思う。
少し意地悪をしたら、解放して上げるつもりだったのに、その先をすぐに求めてしまう。 
SEXを覚えたてのティーンエイジみたいに、紫龍に対してはブレーキが効かないし、終わりがいつも見えないで居る。それは紫龍も同じはずなのだが、子供がそのことを口出すことは無かった。むしろ、かわいげが無いぐらい同じことの繰り返しだった。
「シュラ、俺は帰らないと……」
「お姫様抱きして、送り届けてやるよ」
「死んでもイヤです」
「んじゃあ、殺しちゃうお」
 もちろん、自分も一緒に。連れて行く先は天国。シュラの一番、燃えたぎった所が紫龍の奥に火を付ける。
「知っているか、紫龍」シュラはそっと囁いた。思い出深い誕生日を過ごすのに必要不可欠な存在を、特別に囁いた。だが、シュラが与えてくれる細やかな愛撫に夢中になっている紫龍は多分、聞こえないで居る。まあ、いいかとシュラは思う。紫龍の誕生日も自分のバースデーもこれからやってくるのだ。紫龍にレッスンする時間はたくさんある。
 後はおきまりのコースだった。二人で燃えて、燃え尽きて、そして、再生の朝。
────女神が生まれた日。

 「ハッピーバースデーツウミイ」
 恋人との満ち足りた安眠をむさぼっていたシュラは、けたたましいクラッカーの音で目を覚ました。目の前に、シュラのベットはキングサイズのトリプル仕様なので正確には真正面、3
bの位置にふくれっ面を浮かべながらも、何処か楽しそうな女神が居た。ちなみにこの騒ぎでも、慣れているのか紫龍はぴくりとも動かない。
「折角、女神様がはせ参じて上げたというのにノリが悪いわね。ぷんぷん」
 触れるだけで切れてしまいそうな剃刀に似た眼差しを、沙織はもう一度、クラッカーを打ち鳴らしてみる。
「で、何の騒ぎですか?女神」
「パーティが始まりのよ。城戸邸でやると部屋の片づけが大変でしょう。おわつらえむきにココには腰が痛くて、折角の女神の誕生前夜祭の宴に不参加を表明しているを紫龍が居るから、丁度良いと思って」
 シュラがかろうじて使っていた敬語は次の瞬間、吹っ飛んだ。
「それで寝込みを襲うのか、なめんじゃねえぞお。こらっ」
「大きな声を出すと、隣の紫龍が目を覚ましちゃうぞぉ」
 その呪文に一瞬ひるんだ男員、沙織は小さな声で畳み掛ける。
「フフ、どうせ、こんなことになると思って、一日早く聖域入りしたのよ。財団の会長職もヒマじゃなくてさ、やー、スケジュールの都合付けるの大変だったわ」
「聞いてねえよ、んなことは」
 もちろん、沙織もシュラの云うことは聞いてない。何処から持ってきたのか、魔羯宮にあるシュラのリビングが派手な装飾やらモールで手早く飾られていった。
「ねえ、台所ってこっち?ケーキ、お皿に盛りたいんだけど。後、グラスは?。あんたの所のサングリアって美味しいんですってね。何処なの?」
「床の下の貯蔵庫の所って……、未成年が呑むんじゃねえよ」
「でも、紫龍には呑ませているじゃん。あっ、ベットに連れ込むと為か。じゃあ、しょうがないわね」
 この軽口を防ぐ方法はキスか、後一つしかない。シュラの残り少なくなった秘蔵の酒を女神にあてがった。
「誕生日だからな、特別だ。────にしてもお前も良くやるよな」
 沙織は彼女だけの自分ではない。女神であり、世界で有数な財閥の会長でもある。分刻みの押したスケジュールの穴を埋めるためには、一週間、もしくはそれ以上は掛かるだろう。その行動力には敬意を表したい。
「だって、誕生日くらいは好きな人と過ごさないとさ」
「……お前、聞いていたのか?」
「何を?」
 そう微笑む少女に、シュラが勝てるはずもなかった。紫龍もそうだが、沙織も随分と明るくなったというか、軽くなった。もちろん聖域の玉座に座っている時は、女神としての威厳とその振る舞いを忘れたのではない。だが、時折こうやって紫龍と3人で居る時、彼女は少女に戻る。それが彼女の素かどうかは判らないが、楽しいそうなのは判るし、そんな彼女を紫龍が優しく見つめているのも確かだった。しかもシュラは二人がそうしてられるのは自分の前だけだと知っている。
「さあ、食べましょう。チキンとサンドイッチとチーズケーキ。紫龍、生クリームよりこっちの方が好きなのよね」
「嗚呼、そうだな」
 本当の主役はまだ起きてこなかったが、シュラと沙織は小さくグラスを合わせて乾杯をした。美味しいと、朗らかに笑う少女に、シュラはふと思い出したことを口にしてみた。
「そういや、お前、他の在中組はどうしたんだ?」
「あっ、忘れていたわ」
 









































































































































































おいおい






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