目を覚ますとそこはシュラの上で目の前で黒い瞳が笑っている。
「どうした?もう少し、寝ていてもいいぞ」
自分をとことん甘やかして、砂糖のようにとろかせてしまう男の台詞はあまり信用が出来ないが、
しかし、窓から差し込む光は朝のそれとはほど遠いし、風も冷たい。
まだ、夜中と云ってもさしつかえないだろう。

「今、何時ですか?」
「うん、二時を少し、回ったところ」
「時計みなくて、なんで判るんですか?」
「聖闘士のカン。それにしても、珍しいな。
一度、Sexしちゃったら、満足して朝までぐっすりなのに」
「それはもしかして、イヤミですか?」
「おっ、珍しい。判ったか?」
と、云われてしまうと、それはぴったりと重なってくるアナタが気持ちよすぎるからとは、
男を余計に喜ばせることになって、黙っていたくなる。

それにシュラはきっと気がついているはずだ。
傍らで眠る自分の、多分、幸せそのものの表情。
一緒に眠るようになってから、紫龍は夜が恐くなくなった。
心地の良いスプリングが利いたシュラの大きなベッド。そして、いつでも温かい湯たんぽ。
ここなら例え、悪夢に囚われて飛び起きたとしても、そんな自分をシュラは優しく抱き締め、

「大丈夫。俺が居るから」と、囁いてくれる。
あっと、紫龍はココで初めて気がついた。いつもと部屋が違うこと。
だが、ぐるっと辺りを見渡しても、寝る前と同じだった。
サイドテーブルにシュラの腕時計とランプ。水差しに二つのグラス。
ソファに忘れ去れた本。多少、乱雑に脱ぎ散らかした衣服。
そして、二つの大きな枕。あるべき所にあるべきものが収まっているシュラの部屋。
 
「どうした?」と、髪を撫でられる。その大きな手に何もかも委ねたくなって、
うっとりと目を瞑ってみたが、やはり違和感は拭えなかった。
「シュラ……」
「なんだ、シンコクな顔をして」
「もしかして、今、誰か居ませんでした?」
シュラの手が止まり、少し怪訝な顔で自分をみる。

「誰かって?」
「いえ、なんか人の気配がしたような?」
「疑問形?」
「だから、聞いているんです」
「黄金聖闘士のプライベートエリアの最も、
最深部にある寝室に足を踏み入れる阿呆が居るとでも?
そして、俺がそれに気がつかない愚か者だと?」
 
「いえ、そんな意味では……」
「それとも俺に集中してないのか、紫龍」
 こそりと二人しか居ないのに、シュラは耳元で囁く。まるで大事な秘密を打ち明けるかのように。
「それとも、まだ足りなかった?」
 かあと紫龍の頬が赤くなった。囁いてそのまま白い耳たぶにキスをする。

「ちょ、シュラ」紫龍が体を捩ったが、シュラは止めなかった。
空いている手で自分が着せてやったボタンを外していく。
そのパジャマの隙間から、男の手が器用に紫龍の中を翻弄しようとするのと同じタイミングで、
耳を軽く唇に挟まれ、歯が当たった。あっと声を漏らすと、低い声で囁かれる。
「眠気覚めたみたいだな」
「そんな、シュラのせいじゃないですか。あっ」
「ここはもっと素直だぞ。ほら、解るだろう」
「……」

 シュラに促されて、自分のモノに触れると、確かに同じ熱を持ち始めていた。
「あの、だが……」
「まだ、夜が明けるのは早すぎぞ」
それでも何か言いたげな唇をシュラは自分のソレで塞いだ。
唇で唇を追いかけて、舌でこじ開け、中に侵入する。
口角の裏をねっとりと撫で上げ、舌で舌を重ね合わせ、嬲り上げる。
息継ぎも許さずにシュラは紫龍を追い立ていく。
 
何度となく繰り返している内にシーツを紫龍の手が男の首に巻かれた。
シュラ、とかすかに名前を呼ばれる。だが、続く言葉は否定のそれではなかった。
「――――」
 男が笑みを浮かべた。そして、先程まで散々弄んだろう肌をもう一度、辿っていく。
 指と唇で念入りに。太股に歯を合わせると紫龍の体が跳ねた。
「イヤなのか、紫龍」と、聞いてはいるがそれは確認ではない。
シュラはそのまま太ももから、膝小僧まで辿り、足の指先まで到達する。指の先まで。

「シュラ、そこは……」
「好きじゃないか?気持ちイイって顔をしているのに?」と、構わず親指の付け根を舌先でつついていく。
「でも、だって、まるで変態だ」
「そんな悪い言葉をどこで覚えたんだ。いけない子だな」

「あっ」
 体を持ち上げられて紫龍はシュラの大きな椅子に納まっても、安堵できたのは一瞬だった。
 シュラの大きな手が中心に触れ、前と後ろの両方をに同時に攻められる。
「ちょ、シュラ。しゅら、これはダメ、だめ」
「気持ち良すぎちゃうから?」
 その言葉に紫龍の体がきゅっと締まる。
「ほら、そんなに固くなるなよ。指が動けないじゃないか。
それとも、もっと入れて奥までえぐって欲しいんだ。紫龍は。Hだな」
「そんなこと、ない、――――はあん、」

それだけ云うのが紫龍の精一杯だった。
シュラの手の中で自身は熱をはらみ、そして、後ろは男の長い指が、自身の残滓をえぐるだけのはずだったのに、
的確に紫龍の快楽のポイントを責め立てていく。
あっ、あっ、あっと、紫龍は最早、息を漏らすことしか出来ない。
シュラの大きな手が紫龍の中心に触れる。シュラは器用に前と後ろの穴を同時に責め立てていた。

「やだ、シュラ、やぁ」
 やだと云いながらも自分の動きに合わせて紫龍の身体はピクピクと跳ねている。
「あっ、しゅら」男だけに見せる恍惚の表情。
 その頬が更に紅潮し、大きく放出したせいだろうか。
 一際高い声で啼き声。やがて、荒い息づかいが聞こえてくる。
「しゅら、、、」
「で、次はどうしたい?」

紫龍は答えの代わりに起き上がった。
大きく深呼吸をし、まだ荒い息を整えると、足を拡げている男の前に屈み込んだ。躊躇なんてしなかった。
紫龍は男の中心にそっと触れる。初めは指で、そして、唇で。唇で全部、覆い尽くす。
根本から先まで何度も嘗め上げていく。自分の体液で汚れたモノを綺麗にする、
という名目はいつの間にかシュラのものを大きくするという目的に変わっていた。
「あんっ」男の指が不意に紫龍の胸の突起をつついた。
「あっ、シュラ。いや、」
「嘘つきだな、紫龍」

 そう云われると紫龍は黙るしかなかった。いやでは無かった。
もっともっとと、何かが訴える、その自分の情欲を紫龍は冷静に分析しようとしていた。
さっきまで散々、いじくりあっていたのだ。
シュラの体に馬乗りになって、シュラの中心を体の奥底に埋め込んだいた。
単なる接合だけでは足りなくて、自分から体を上下させて抜き差しを繰り返す。
その度に角度を変えて、ポイントを変えて、欲しい所に導いていた。一番奥の秘密の場所。
いつまでもそこに居て欲しくて、ぎゅっとシュラの体にしがみつく。息を詰め、

「シュラ」と、名前を呼ぶ。
だが、次の瞬間、もっと気持ちよくなりたい自分はさっきより大胆に腰を動かしている。
互いの性を振り絞るだけ振り絞って、ぐちゃぐちゃになって、
もうシュラのことで身も心も一杯になって、一杯にしてもらう。

最後にもう一度、キスをして、
キスをしながら男の腕の中で眠りについてから二時間も経って無いのに、
どうして又、Sexしているのだろう。
なぜ、体が欲しているいるのだろう。
判らないのに、判らないから夢中になっていたので、シュラの手がそっと、
再び自分の堅くなった真ん中に指を這わしていることにも気が付かなかった。

「あっ、しゅらぁ」
「どうした、紫龍?」
「もう、いや」
「いやじゃ判らないぞ、何がしたいんだ」
「離して、ほしい」
「何を」
「アナタの手を、早く」
「早くしないと、どうなる?」
「いや、もう、ダメ、だめ、シュラ、あっ」

 だが、その手が離れたのはほんの一瞬のことであった。
 紫龍が性を放とうとした時に、シュラの大きな口が紫龍を捕らえていた。
 ぴちゃぴちゃと卑猥な音が紫龍の耳を捕らえる。
「や、汚い、ダメ」
「さっき俺のも綺麗にしてくれたじゃないか」
「だって、それは……」
「それは何だ」
「だって……」
 紫龍は一生懸命に耐えていた。それは羞恥からではない。

「俺のが欲しい?」
「シュラあ、やぁ」
「やだって、何がイヤなんだ」
「はやく、入れて、ください」
 それはシュラが思っていたのとは違う言葉だった。
「早く、一緒に、シュラ」
 今度は紫龍は躊躇わなかった。
「可愛いな、紫龍は」
 ふわりと体が浮いたと思うとシュラの熱が再び紫龍を刺し貫く。
 いや、先ほどの余波がまだ残っていたのか、いつもよりももっとシュラを近くに感じる。
「あっ、シュラ。もう、あっ、あん、あっ」
 そう声を上げる度にシュラの動きはどんどん早くなっていく。

「しゅら、もう、やぁ、ダメ、あっ、あっ、あん」
大きく息を吐き出す紫龍の、決して痛みだけではなく、
止めなく流れる涙に口付けると、シュラは優しく囁いた。
「愛している」


それは今まで一度も見たことのない優しい微笑みだった。

――――と、いうワケでシュラは誘えなかったんだという猊下の報告に、
デスマスクは牌を持つ手を一瞬、止めたが、最終的には迷うことなくインピンを切った。
この件に関して、今更、何を云えばいいのだろう。

「恐れながら」から始まり、
「今日は小僧、来てますよ。しかも何かの記念日ぽいっすから回覧も回してくれるなと云ってました。
つまり絶対ムリ」と、注意を申し上げたし、トドメに、
「後〜、山羊を迎えに行く前に思い切り、ふりこみましたよね〜。
俺、ヤクマンだったんですけど、それはどうなっているんですか?」
と、云いたかったが、だが、しかし、デスマスクは耐えた。

話がどうせ面倒になると、誇張され、
あることないこと聖域の裏HPに書かれるだけというのが、
判りきっていたからだ。だから、無心で牌をかき混ぜていたのだが、
KYな後輩は、しかも一番核心をズブリと刺し貫いた。

「つうか、猊下は何で頭がアフロになっているんですか?」
「だから、決まっているだろう。デバガメってんだから。
ピーピングトムだからだよ。あっ、おまえはにはこんな古語は通じないか。
覗いていたんだよ。思いきし。まあ、声は聞こえていたんだろうがね。

やあ、ダメです、そんなこと……、あっ、

を覗き見ようとしたら、山羊の寝室の所のトラップが暴発した。
だから、実際は見てないんだよ。
所詮、誇張?大ボラ?ビックマウス?いつものこと?って、ことですよね、げーか」

「うん、まあ、当たらずとも遠からずなんだけどさ〜」
自分の代わりに空気を読まない男の問いかけに答えてくれた男に、
勿論、多少気になる語彙はあったが、
聞かなかったフリを出来るレベルであった。ただ、一つの真実を除いて。

「まあ、気持ちは判るけどなあ〜」
「何が?」
「いや、あの子がさ〜、そんな自分から乗っちゃうとか?
奴の美味しそうにくわえているとか?
腰をくねらせて甘えた声で続きをせがむとか、
そうゆうの考えたくないのは良く判るけど」


「えっ?そんな話、どこでしました?」
「これだから、AV世代はイヤだねえ。
見たまんまじゃなくて、ちょっとは文意から想像力を働かせてみろよ」
「はあい」と、素直に目を閉じたミロの頭にデスマスクの鉄拳が下った。

「だから、想像する必要なんて無いだろうが!山羊と小僧のHなんて、
なんでわざわざ脳味噌に浮かべる必要があるつうの!」
「まあ、必要はないんだけど。真実から目を反らしてはいけないんじゃないか?
地上の愛と平和を守るアテナの聖闘士として!」

「なんすか、その真実って?」
ニタリと猊下は神の地上代行者としてふさわしくない笑みを浮かべた。
「だから、お前がほんの一瞬、考えちゃったことだよ」
つまり、これが有名なドードー巡りって奴だなとミロは瞬時に悟ったが、
しかし、デスマスクには理解できなかった。その場に凍り付いてしまった。
 
だって、そんなことあるはずは無かった。なぜなら、デスマスクは知っている。
紫龍という子供を。その正しさをやさぐれとはいえ、
最高位の黄金聖闘士の自分にさえ、自らの正義を押しつけ導こうとしているカタブツの子供。
とりえは、綺麗といえないことはないそのツラ位だろうか。
 
それだって、周囲にふりまく愛想良く振りまく笑顔と違い、
自分に見せるのはさげすみと侮蔑と哀れみをブレンドした表情。
清く正しい五老峰の老人(今は若くなったが)の愛弟子。
初めて逢った時は白のステテコ姿だった。
 
それがいくら間違って山羊の恋人になったとはいえ、
あの細い身体で男を迎い入れ、苦悶の表情を浮かべ、
堪え忍ぶならまだしも、掠れた声で嬌声を漏らす。
白い肌が少しずつ、紅に染まっていく。あげく、
「もっと」なんて、そんなはしたないことを云うはずがないのだ。断じてありえない。

あっていいはずが無い。

だが、猊下は更にデスマスクに追い打ちをかける。
「証拠は?俺の話がヨタ話と決めつけるのは構わなんが、
そうゆうお前のドリームが事実っていう証拠は?」
「そう云えば、山羊のダンナがドラゴンちゃんのこと、あんまり慣れてないから、
激しいのはダメって、こぼしてましたよ、乙女前回モードで、この前」
 一瞬、たじろいてしまった男に助け船を出してくれたのは、
 かつて面倒ばかり掛けていたつけないはずの後輩が、  大きく成長して、スマッシュヒットを放った瞬間。

「へえ、それって、何時ぐらい」
「かれこれ、三ヶ月前っすか?」
「じゃあ、その間にすっかり慣れちゃったんだ」

「ああ、調教っすね。いいっすねー、
ロマンですね。男の」

 しかし、やはりさっさと人を奈落につき落として後輩にゲンコツをくれてやる。
やはり、こやつらに期待してはいけない。
だったら、その小僧の名誉を守る方法はただ一つしかなかった。

「証拠なら持ってくればいいんだろうが」
「へい、いってらっしゃい」 
 そして、執務室を出ていった男の背中を見つめながら、ミロは大きくため息を付いた。
「猊下の云った通り、本当に一人足りなくなりましたね」
「な」と、猊下は大威張りであったが、出て行った男の指摘通り、
初めから最後まで大人しく三人麻雀に興じていれば、
静かな夜を過ごせたのではという疑問は投げかけない代わりに、

「あー、こうでもしないと平和ボケしている山羊に緊張感を強いられないだろう」
「それはダンナだけで、いいのですか?」
女神の手腕によって海界、冥界、果ては天界とまで和平条約が定まり、
穏やかな時間を享受しているのは、教皇のやり玉に挙がっている男だけではない。

聖域、終身名誉教皇を筆頭にし、聖戦に携わった者達はこの、
恐らくそう長い時間ではない平和を満喫しようと皆、躍起になっている。
その中で陰気なムッツリスケベが服を着て歩いていると評されているカプリコーン聖闘士が、
眉毛を0・1ミリほど下げたにやけ顔になったとしても、
何かというと修行したがりの童虎老師が武術大会やら、トライアスロンやら健康イベントを開催したり、

ご機嫌損ねた弟子の為に、新しいフレーバーティーを開発という名目の、
新薬実験のティーパーティを開いてみたり、
万が一のことがあったら、やばくね?と自分一番鉄砲玉のくせにボディガードは必要と、
黄金聖闘士をぞろぞと釣れ歩いて荷物持ちにする女神達に比べれば、
 
気持ち悪い他は、問題は皆無と云っても良かった。
 
仮にあったとしても、最初にイタイ目に合うのは、蟹センパイだ。
こちらまで被害は及ばないだろう。だが、猊下は云うのだった。
「神は天にあり、この世はすべてよし。
アレはあまり幸せになれてないからコレ位のイヤガラセで丁度いいんだよ」
「では、そうゆうことにしておきましょう」

と、ミロは臣下らしくその場を収めることにした。正直に云えば、蟹センパイが可哀相という他、
カプリコーン氏はあまり応えてない気がしたがそれは口にしない方がいいような気がした。
あの少し年上の三人の聖闘士達には色々云われ放題であるが、
ミロだって、それなりにTPOは弁えているのだ。
ただ、地雷をうっかり踏んでしまう範囲が他の人よりは若干、広いだけなのである。
そんな男が恭しく頭を下げる。

「猊下、ではもう一つよろしいですか?
で、そのアフロヘアは蟹先輩の云った通りなんですかなんですか?」

「ああ、それは明日、デスマスクが身をもって証明してくれるよ」
と、豪快に笑う猊下も予測できなかったこと。

 紫龍の無実を晴らすべきと、いさんで乗り込んだ磨羯宮の最奥の寝室に乗り込んだデスマスクは、
つまり所、猊下と同じトラップを踏むのであるが、
全てを終え、ただすやすやと眠っているだけの天使の寝顔を垣間見、

 瞬間、ガッツポーズを握ってしまったのは、本人さえ知らない小さな真実である。


Fin









女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理