ごるびぃにオヤスミの口付けをし、その香しい体臭に包まれ、温もりを確かめ、彼女のキスで締めくくる。それが一輝の一日のスタンダードスタイルだった。

そして、男という者は一度、決めたことを貫かなければならなかった。例え、愛するモノが行く手を阻もうと、ごるびぃが寝ている部屋でどのような痴態が行われていても、関係してはいけなかった。

もちろん、一輝とて人間だから、どうしても時間的都合で折り合いが付かない場合、例えば海外出張に出ているなら、こっそり撮ったベストオブごるびぃ写真集でガマンも出来ようが、同じ町内で、耳を澄ませば彼女の吐息が聞こえてくるのに、彼女にオヤスミが云えないのはやるせなかった。プライドが疼いたのでは無かった。ただ辛かった。だが、一輝はフェニックスである。不死鳥である。めげないのである。確かに計画は半ば挫折した。

しかし、飼い主に名前を連ねるあの二人が居ない今、チャンスはまだ一輝の手元に残されていたのだ。ごるびぃと一緒に夜明けのコーヒー(自分で煎れる)を楽しむプロジェクト。男とは登る山が高ければ高いほど、燃え上がるモノなのであった。



 デスマスクは、今こそが好機だと考えていた。

 あのごるびぃモロゾフ4世を誘拐する。狂乱の紫龍の前で、かたぶとりの首に、鋭利な刃物を突きつける。紫龍の顔が醜く歪む。憎悪をたぎらせた目で自分を見つめるだろう。
 だが、ヒッサツ技を繰り出すわけには行かない。そんなことをしたら、非戦闘犬が巨大な小宇宙の巻き添えを食うからだ。

「卑怯者、デスマスク」




 紫龍の絶叫が聞こえる。だが、しかし、デスマスクは冷たい笑みを浮かべた。

「そんなことはわかりきったことであろう!!」
「くっ!!」

「うおん」ごるびぃの哀しげな声が聞こえる。まるで、私のことは大丈夫です。ご主人様のご主人様というように。
 それだけで十分の効果が発揮され、紫龍は決心する。唇を噛みしめ、跪く選択を―――。

「要求は何だ!!」

 フフと、冷たく微笑みながらデスマスクは答えてやる。

「そうだな、服でも脱いで貰おうか、もちろん、下もな。わはははは」

 ・・・なんて、こりずに妄想を膨らませていたので、彼はお遊戯室のすみっこにいつものバスケットと毛布にくるまりながら、眠りこけているシベリアンハスキーのボディガードに気が付かないばかりか、少し前の自分の宮にあった死に顔のつもりで、思いきり踏んづけてしまった。むにゅうと。

 人はあまりにも思いがけない体験を前にすると、しばし茫然とするしか出来ない。気が付いた所でさっさと逃げればいいのだが、男は律儀にも聞かずには居られなかった。

「なぜ、お前がこんな床に茣蓙引いて寝ているんだ、フェニックスよ」




「それはこっちの台詞だ、お前が大好きなイロっぽい姉ちゃんは居なくて、苦手とするガキ共がたむろって居る場所にわざわざ侵入するとは・・・・。はっ、まさか現代科学の粋を集めた鉄壁のセキュリティーと黄金聖闘士を凌駕する神聖衣保有者(俺様はそんなモノに頼らないが、フッ)がゴロゴロする城戸邸よりは町はずれのコキタナイ、ココならばごるびぃ誘拐を組みやすいしと考えたか、この外道がっごるびぃの肢体を思うがママにしたいという気持ちはワカランではないが、汚すぎるぞっっ、恥を知れ!!」

「それは名誉に掛けて違うっ。―――俺の狙いは紫龍だっつーの!」

「ならば尚のこと。てめいの汚い性欲の処理にごるびぃを利用しようとは・・・、万死に値する。神妙に縛につけ」

 デスマスクは割と素直だったので、つい正直にゲロってしまった。最も不法侵入した時点で申し開きは出来ないのだが。

 だが、なぜ一輝はカニの気持ちを(半分だけだが)こんなにピタリと言い当ててしまったか?それは、その昔の若干のアクヤク経験がモノを申しているのだが、この場では誰も突っ込む者は居ない。

そして、所詮は一輝にとってアクヤクは過去の経験であり、現役ならではの気持ちまで理解してなかった。こういった場合に追いつめられた男があっさり投降できるはずがなかった。逆上。そして、自らの正当性を貫くために男は拳を振り上げなくてはならなかった。

「えーい、こうなったら、積尸気冥界覇!!」

 爛れても黄金聖闘士の奥義が炸裂し、お遊戯室の隅に置いてあった大きな積み木セットが粉砕される。だが、その瞬間、一輝の口元から笑みが零れた。

「フッ」

 そうなのだ。この男は待っていたのだ。腐っても彼は女神の神聖衣の保有者だった。正義の為に闘わなくてはいけなかった。だが、先に攻撃を仕掛けられた故、仕方なく拳を奮う正当防衛ならば致し方がないことであった。これなら女神にも瞬にも怒られまい。

「ココで逢ったが100年目。いつもいつもごるびぃを気色悪い目で見やがって!!お前のような奴は地獄で閻魔に詫びでも入れてこいっっっ!ほーよくてんしょーーー!!」

なのに、ざばっと。その瞬間、一輝の正義の炎が沈下される。

「真夜中に人の家で、しかも器物破損しながら、何をやってらっしゃるのでしょうか〜。あっ、逃げる前にソコ直していって下さいね」

絶対零度の微笑みで、絵梨衣はにっこりそう告げた。



 氷河は海の音をBGMにしながら、紫龍の横顔を見つめていた。

程良い酒が入ったせいなのだろうか、それとも湯に当たりすぎて上気したのか、ほんのり頬が桜色に染まっていた。長い髪を一つに纏め上げているから、うなじが綺麗だ。浴衣からはいつもより水気を含んだ肌が少し覗いていた。新鮮というよりは、まるで初めて紫龍に出逢ったかのようだった。

そう、これから恋をする為に・・・。

「―――綺麗だ」

「そうだな」

障子を少しだけ開けて夜の海を見つめていた紫龍が呟く。

「吸い込まれそうだな」

「お前にか?」

 瞬間、紫龍は呆れたように氷河を見つめたが、すぐに視線を海に戻し、呟いた。

「いつもじゃないのか」

「そうでした」と、氷河は後ろから紫龍を抱きしめる。振りほどくかなと思ったが紫龍は素直に身を任せていた。

 旅は不思議だ。この旅館には他にも人が居るはずなのに、なんだか誰も居ないみたいだった。
静かだった。不意に世界に二人しか居ない錯覚に襲われる。

「ひょうが」

と、少し掠れた声で紫龍が名を呼ぶ。どうやら、言葉にはしないが同じことを考えているらしい。確かめるように、紫龍からの口付けがあった。それが合図のように、二人は隣りに敷いてあった布団に縺れてこんで行く・・・・・。

 それは、








「・・・お遊戯室も壊されてしまったし、何より薄汚いこそ泥が出るような所へ大事なごるびぃモロゾフ4世を預かっておけないわ。可哀相だけど、お電話して迎えに来て貰わないとね。もちろん、ご当地エンゼルパイとご当地おっとっとは買ってきて貰わないとだけど・・・。ごるびぃモロゾフ4世ちゃん、お家に帰れるわよ、嬉しい?」

「わんわん」

「そう良かったわ。ちょっと妬けちゃうけどね」

と、微笑んだ彼女の形の良い指が氷河の携帯電話を鳴らす、少し前の出来事だった。

 嗚呼、一輝のごるびぃとラブラブ大作戦、大失敗の巻。


                        FIN

しなさんにまたもやおねだりして書いていただきました、新年初、ごるびぃシリーズ!どんどん愛を深める一輝とごるびぃ。。。。。ディープな愛ですよね・・・もはや感動の域です。デスマスク、固太り固太り、レディ(※ごるびぃ)に向かっていうなっちゅーの!
紫龍がもはや綺麗所になってしまったこのシリーズ。どんな闘いがこれからはじまるのか(氷河が蚊屋の外で・・・)今度もめっちゃ楽しみです!しなさん、ありがとうございます!

一応、約束の温泉編です。初めからこの予定でした。(オニ)
一輝は何時になったら、ごるびぃと眠れるのでしょうか?って趣旨が違っている。
所で、私は相変わらずフォントを純ちゃんに大きくして、貰ってます。
笑いのポイントを客観的に見て取れるという高尚な理由ではなく、
自分すら初めて見たように笑えるからです。ありがとうね、純ちゃん。byしなしな

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