新しいペアの(氷河推奨)のパジャマを着替えて、ごるびぃにおやすみなさいを云おうとした紫龍に、氷河は酷くまじめくさった表情で切り出した。

「大事な話があるんだが」

明日の夕飯のことか?」

「違うっ。そろそろボルシチが食べたいなと思うが、そんなことではないっっ」

でも、明日の夕飯はボルシチがいいんだろ」

「うん」

「そうすれば、ごるびぃにも牛肉、上げられるしな

「わんわん」

明日の夕飯に狂喜乱舞するごるびぃモロゾフ4世とは対照的に、氷河の表情はますます鋭角に真剣そのものになっていく。

「そうじゃなくてな、紫龍」

「何だ?」

「その、バックを試してみたいのだが・・・」

新しい鞄が欲しいのか?」

にっこり。氷河は紫龍に見果てぬ天使を重ねる、と同時に自己嫌悪に陥る。
果たして、汚い人間が紫龍に触れて貶めてもイイモノなのだろうか。
だが、いつものようにココで萎えてはいけなかった
乗り越えてこそ新たな地平が開けるのである。

その固い決心とは裏腹に氷河の声はいつもよりちょっと小さい。

「そうじゃなくて……背後位」

ハイコウって?」

紫龍は本当に不思議そうな顔をしている。
あー、カワイイと思う。
このまま押し倒したいなと思ったが、それでは氷河の長年の夢が叶わなくなる。
コホンと、氷河は咳払いを一つする。

「壁に手を付いてみてくれないか」

―――何処までも低姿勢な氷河である。

「こうか?」
と、紫龍は後ろを振り返る。

「イヤ、そのまま壁の方を見ていてくれないか?」

「それで?」


「だから、これがベットだとして……」


「うんうん」

こうと、氷河は紫龍の双丘に触れた。
その割れ目に指を押し当て、強くなぞった。

「―――このまま入れる」


一瞬、体をびくんと震わせて、振り返った紫龍はえもいわれぬ顔をしていた。

「ええっ?」

「だから、いつもやっているのが正常位で、後ろから貪り付くように覆い被さっ
て、そのままやるのが背後位―――バックとかドックスタイルとか云われていた
りもするが・・、判ったか、紫龍?」

「―――えーと、一つだけ質問があるのだが・・・」

「何だ、紫龍?」

「どうして、そんな風にしなければならないんだ?」





・・・どうしてって、……改めて聞かれると氷河は困る。
やってみたいとか、面白そうとかは、紫龍には通じないだろう。
ましてや、

「そろそろ、いいだろう」と、うっかり口走れば、

「何だ、その云い方はっっ。辻褄が合ってないぞ」

と、逆上して、

「そもそもお前は俺に限らず意思伝達を放棄してる、俺達は兄弟だからいいが、目上の方々に向かって・・・」


と、話があらぬ方に行くだろう。

どうしたものかと考えあぐねていると、出逢ったときと同じ真剣さで自分を見つめる真摯な瞳に気が付いた。

(すまん、モロゾフ4世)

心の底で氷河は謝る。

(後で、肉をやるからな)

氷河の想いをキャッチしたのか、単なる偶然なのか、
ともかくモロゾフ4世は、「わん」と、吠えた。

その声に氷河は後押しされる。

「モロゾフ4世、毎日、見ているだろ、俺達を」

「それが?」

「モロゾフ4世もお年頃だ。お婿さんが出来るかもしれない」

「お前、泣きそうだぞ」

「―――それはさておいて」

ちょっと鼻が詰まったがまだくじけている場合ではない。
問題はその先である。

「やっぱ、やらねばならないだろ」

「―――何をだ?」


「営み」

勿体まわった表現は紫龍をしばし悩ませたが最終的には、

「―――まあ、そうだな。ずっと先のことだろうが」

と、無難な相づちを打った。

 自分で云っておきながら、その陵辱の瞬間を思い描き、胸が押し潰され、哀しみに捕らわれた氷河であったが、同時に紫龍の言葉に救われる。
いつでも紫龍は氷河に一雫の救いを与えてくれる。

その紫龍をもっと深く知りたいから、氷河は勇気を振り絞った。

「その時、『ごしゅじんさまのごしゅじんさまとご主人さまは、いつもこうやっているから、私もこうなのねえ』っと、モロゾフ4世が仰向けになったら、どうするんだ!!!
相手の犬が困るだろう!!!!!


そんなはずあるかっっ

「どうして無いと云いきれる」

氷河の気迫に紫龍は振り向いてバスケットにくるまっている彼らの愛犬を見やる。

「―――本当か、ごるびぃモロゾフ4世?」

モロゾフ4世はくぉーと大きなアクビをしてから、じっと紫龍を見つめている。
モロゾフ4世は何も語らない。
ただ黒い瞳で紫龍を見ているだけであった。
わずかな表情としぐさで感情を読み取ろうというのは人間の勝手な思惑に過ぎな
い。

(だけど、営みって本能だぞ。間違えるか?いや、俺も間違えている
それにごるびぃモロゾフ4世は出自が複雑だし、親から伝達されるべき情報だとしたら
、知らないことかもしれないし・・・)

と、紫龍は無駄な長考に入っている。
少なくとも迷っている。
こんな時はもう一押しだとばかりに氷河は打って出た。

「それにな、紫龍。バックは挿入が深く抉れていいらしいぞ」

途端、紫龍の表情が変わった。

「いいって、それがどうか、するのか!!莫迦っ」

莫迦はさておき、―――どうするかと云われると、

「試したことがないから、判らないが、いいんじゃないのか?」

だから、俺に同意を求めるな。お前しか知らないんだからな」

えっと、酷く驚いた顔をされる。

「本当か?」

「何事もやってみないと判らないだろ」

「そっちじゃなくて、・・・その〜〜〜俺とが初めて、とか」

「それがどうかしたのか?」


何時もと同じ声。
気負いも、テレも、今、自分が伝えた事実が紫龍の頬を薔薇色に染めたかを。
氷河は結果を考えない。
良いに付け悪いに付け様々な感情を紫龍に起こさせるが、単に紫龍の受け取り方の問題だけで彼は決して嘘を付かない。

自分にだけは真実をさらけ出してくれる。
だから、紫龍は氷河を信じることが出来た。

「―――すまん、氷河」

「今までなんだと思っていたんだ?」

「何だって―――、すまん、お前のこと誤解していた」


どう誤解しているのか聞いてみたい誘惑にかられたが、やっと自分でも捕まえられるようなチャンスを逃すほど、愚かではなかった。
紫龍を抱きしめる。そっと、初めて彼を抱きしめた時のように。
あの時と違うのはすぐに自分に回される腕であった。
そして、耳元に囁く甘い声。

「えーと、じゃあ、バックにしていいか?」

「だからっっ、なぜ、お前はイチイチ口に出すんだ!!」

「勝手にやったら、怒るからだろうが」


「それは二人きりの問題ではないからだろうが!!」


「二人の時だったら、何をしてもいいのか?」

「常識の範囲にも依るが、そもそもドコを差しているんだ?その”ナニ”は?」


「お前が許してくれるところまで。でも、俺はお前が嫌がることはしたくないん
だ」


紫龍は何も云えなくなってしまった。
氷河の行動に眉をひそめたことはあっても、イヤだったことは一度もない。
戸惑ったこともあるかもしれない。だが、(今のような場合)いつの間にか、ふわふわと夢心地になる。
ましてや許せないことなんてない。

その導き出された真理に紫龍は愕然とする。
何せ初めて知ったのだ。
自分にも氷河と同じ欲が所在していること。
もしかしたら、それ以上の。

「俺は―――お前を信じているから・・・」

「じゃあ、ムード作って、だんどり踏まえて、一度目は正常位で、ニ度目が終わ
ったらインターバル空けないで、口付けから攻めていって、伸ばされた手を取っ
て、ひょうがぁって呼ぶの待っていて、座位からいれたまんま、バックに持って
いけばOKなんだな」


だから、止めんかいっっ。口に出すのは」

「つまり口を出さずに実行すればいいんだ」

「先刻から、云うなと云っている………」


唇が塞がれる。そのまま宙に持ち上げられて、ベットへ下ろされる。
次には、「紫龍」と、甘く囁かれる。

たったそれだけで紫龍から余分な力が抜けていく。


そして―――、一輝はただ今の代わりに犬を抱き寄せる。

「いいか、ごるびぃ。あれが犬も食わないふーふゲンカ(ちょっと違うが)というものだ。判ったか?マネするなよ」

「うわん?」(えーと、むずかしいの〜)

と、返事をするごるびぃの感情を理解できない一輝ではないが、自分を見つめる円らな黒い瞳にくらくらになる。

「ういやつ」

「わん!」


 
そして、犬と人と、人と人とは、いつまでもいつまでもその温もりを確かめ合っていた。








ゲンコウを渡した純ちゃんに「天才」というお褒めを頂きましたが、これでその賛辞というのも、どーよという気がするのもあながち気のせいではないでしょう。おまけに赤ペンセンセイのごとく、色とりどりになって戻ってきたHTMLを見て、ちょっと愕然となりました。なんか、このひとタチ、何時にも増してアホっぽい〜、まーいいけど。蛇足ですが、氷河のやったことのネタの出所は、アレンジはしていますが、何時もと一緒で某Jさんです。ネタ提供、ありがとうっっ。(覚えている?)


彼等のケンカのあまりのクダラナサと真剣なやりとり(しかも、ごるびぃまで巻き込んでいる)に、彼等らしすぎて爆笑してしまいました。そんなしなさんのごるびぃシリーズが大好きで、褒め言葉がそれしかでてきませんでしたの。
っていうか、氷河と紫龍って、ケンカしても、大幅に周囲を巻き込んでいるようで、結局、おとなしく2人の世界で完結してしまう平和さがありますね。巻き込まれた当人(当犬)には迷惑な話なんでしょうが。
ちなみにこれは、身内のずうずうしさになってしまった、わたしのしなさんへのキリリク、「痴話げんかする氷河紫龍」というリクエストに見事に答えてくださったものであります。元ネタの予想を遥かにこえるおもしろさであります(と、某Jが思い出しながらコメントしておりました)。氷河の、紫龍への、一般の何かを遥かに超越している対応に、彼の大物ぶりと、ほとばしる愛情をひしひしと感じます。しなさん、いつもホントに有り難うございます〜!ってゆーか、今気が付いたけど、わたしのキリリク、見事に自分も描かねばならなくなったような気がしないでもないですが、これがいわゆる、ブーメラン効果?(※違う)
 

ばっく

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