ごるびぃモロゾフ4世は、
青いバスケットと赤い布団にくるまって、一匹で良い子で眠りに付く。
ごしゅじんさまとごしゅじんさまのご主人様が、二人で仲良くベットの上でじゃれあっていたとしても、
そのお兄さまが、
「お前も身の置き場がないだろ。どうだ、俺の所に来るか」
と、お誘いをしてくれてもごるびぃモロゾフ4世は丁寧に辞退する。
ごるびぃモロゾフ4世はヨイコだった。
そして、ごしゅじんさまが決めてくれた彼女の寝床はこのバスケットだった。
この家の子になった記念に買ってくれた、自分だけの物。
故に彼女はココを守らなくてはならなかった。
ごしゅじんさまとご主人様が安心して眠れるように番をする。
それが犬の勤めというものであった。
もう一つ付け加えるならば彼女はこのバスケットが大好きだった。
大きすぎず、小さすぎず、くるっと自分が丸くなれる場所。
赤いお布団はごしゅじんさまとご主人様がちゃんと干してくれるから、いつでもふかふかで、ごるびぃモロゾフ4世をお姫様にしてくれる。
居るだけで、ごるびぃモロゾフ4世はごしゅじんさまとご主人様の温もりを感じることが出来た。
だから、いつだってぐっすり夢の世界に行けたが、誰にでも―――犬だけど、苦手があるように、嵐の夜だけはどうしても、彼女はヨイコになれなかった。
「―――モロゾフ4世」
今まさに野獣にならんと紫龍の上に覆い被さろうとする瞬間、氷河の足の所にぴとっと置かれた毛むくじゃらの手に、彼女のすることは何でも許す飼い主にしては珍しく渋い顔を見せる。
「お前のベットはあっちで、ここは俺と紫龍のベットで、入っちゃダメって云わなかったか?」
うん、知っている。というように、しっぽは愛想良く振られている。が、動く気配はない。だが、氷河も折れるわけにはいかなかった。
「じゃあ、戻りなさい。俺達は今、大事なお仕事の最中なんだから」
「大事なのね?」
モロゾフ4世の黒い瞳はあくまで円らだった。そして、その身体はよく見れば小刻みに震えている。
折角外したパジャマの釦を填めながら、紫龍は優しく微笑んだ。
「いいじゃないか、氷河。別に今日はしなくたって」
「―――俺、マンネリになっているのか?」
「うん」
紫龍の笑顔は氷河をクレパスの裂け目に突き落とすのに、十分であったが、救出のザイルを垂らすのも又、紫龍の役目である。
「まあ、冗談はさておいて、―――嵐の夜は誰だって一人で居たくないもんな。特にごるびぃモロゾフ4世は、―――昔のことを思い出すんだろ」
昔とは、もちろん彼女が氷河と出逢う前、誰に知られないで、独り嵐に濡れていた時間を示す。
犬は何も云わずに紫龍にすりよる。そのごわっと固い毛並みを紫龍は何度もさすった。
「大丈夫だよ、もう、お前は独りじゃないんだから」
「わんわん」
「じゃあ、おやすみ、ごるびぃモロゾフ4世」
「わん」
そう云って彼女を自分と氷河の間に挟み、毛布を掛けようとした紫龍の手が氷河に取られた。
「―――お前もそうだったのか?」
「えっ?」
氷河と話をしていると思わぬ方に話が転がっていくことがある。とぼける気は無かったが、氷河はもう一度繰り返すので逃げられない。
「だから、嵐の夜。一人で淋しかったのか?」
「俺のことは関係ないだろ。それに昔の話しだし」
「じゃあ、今は俺が居るから平気なのか」
心の奥底の、恐らく自分でも気付かなかったキズに障られると紫龍は困った顔をする。すごく居心地悪そうになるくせに、目だけは行かないでと訴える。氷河はぎゅっと紫龍を抱きしめたくなる。キスしたくなる。そのまま離したくなくなる。
―――ごるびぃモロゾフ4世の頭越しに。
だが、紫龍はしばらく氷河の顔を見つめてぽそっと、呟く。
「お前って……」
「何だ?」
「いや、何でもない。……おやすみ、ごるびぃモロゾフ4世」
「わん」
そして、あっと云う間に一匹の寝息が聞こえてきて、氷河は独り取り残された格好になる。以前ならば。
だが、氷河にはちゃんと判っている。紫龍が単に照れているだけということが。
だから、小さな声で囁く。
「……紫龍、手、繋ぐか?」
返事はない。けれども、もぞもぞと毛布に出される所在投げの手を捕まえる。
―――だって、嵐の夜だから。
そして、大好きな人たちに囲まれて、青いバスケットより、大好きな場所で、
漸くごるびぃモロゾフ4世は眠りに付くことが出来た。
そうか、ごるびぃは、嵐の夜に拾われてきたのね。涙ぐむわたしでした。これ、松田聖子さんの昔の曲思い出しましたが、しなさんも「タイトル、それでいこー」と言われたので、『さすが同年代の熱き血潮』と感動しました。氷河の、とっても分かりづらいが、実はちゃんと甲斐性あるところが鮮やかに描かれている作品(※ただし、この甲斐性は、それを分かってくれる紫龍だけにしか通用しない)。(純子)
うっとりしている純ちゃんには申し訳ないが、本当は雨の日の予定でした。
でも、雨のたんびにHを邪魔されるのは、ちょっとねえと思って、雨よりも激しい嵐に変更。
雨の、でも、雷のなる日に捨てられてたのはうちの犬です。
そのせいで雨、嫌いですねえ。母親をひっかいて起こして一晩中、障って攻撃です
〜やっぱ未だに不安なのかなと思うと切なくなりますねえ。
所で、バスケットと布団の配色があっているかどうか不安です〜
気が付かれた方はこっそりと、ご一報下さい。後、表題見て一発で聖子ちゃんの「抱いて」を
思い浮かべる人も少ないのかなあ〜うーん。時代の流れね。ふっ。(しなしな)
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