「帰ったぞ」と、いう亭主関白な定番のフレーズで男は扉を開けた。
 城戸邸は夜半を過ぎ、疲れて帰ってきた男を迎える者なぞ居るはずも無かった。ただ、一匹を除いては。

(お帰りなさい)
 ベットサイドの灯りしか点いていないが、ごるびぃはちゃんと一輝を認識し、―――寝床のバスケットからは出なかったが、おっぽを振ってご帰還を歓迎する。

「ただ今、ごるびぃ。―――って、もしかして眠っていたのか?」
(ううん、ちゃんと起きていたの。お帰りなさい)
 ぱたぱたと自分にだけに振られるしっぽに一輝の眦が柔らかくなる。

「ごるびぃは本当にイイコだな。明日はおみやげを買ってくるぞ」
(えへへ、ありがとうなの)
「じゃあ、オヤスミごるびぃ」

 一輝はそうやってごるびぃの中に顔を埋める。キスの代わりだろうか。
随分とそうやってから、それでも名残惜しそうに一輝は漸く部屋から出ていった。

ばたんと扉が閉まる音がする。そして、決してノリノリというワケでは無かったが、きちんと反応を返していた紫龍が凍りつくのを不振に思った氷河がその動きを止めた。

「どうかしたのか?」「えっ、いや、その・・・」
 今、見たモノを何と説明したらいいのだろうかと、紫龍は迷った。氷河は気が付かなかったのだろうか。・・・もしかしなくても、ありえる。最中のあなどれない集中力もさておいて、二人で居る時の氷河は子供みたいに無邪気で柔らかだ。

だが、コトが起これば―――例えば恋人たちの寝室に、しかも致している最中に無断で、特に仲の悪い一輝が通り抜け、自分の可愛いごるびぃモロゾフ4世に挨拶だけしていき、又、帰っていたなぞ知られてしまえば、少年は瞬時にして聖闘士の顔になるだろう。

そして、失われた時間は戻ってこない。紫龍のささやかな羞恥心と自分だけを見つめ微笑む氷河に安らかな眠りの帳に包まれている敬愛すべき女神とかけがいのない仲間達。比べるまでもなかった。真夜中に要らぬ騒ぎを起こす必要が何処にあるのだろう。夜は静かに過ごすモノである。

だから、今見たモノを忘れたことにして、笑顔で氷河に口付けをし、
「何でもない・・・」と、答えようとした時だった。
再び、乱暴に扉が開いた。
「―――悪い、さっきは邪魔したな」それだけ云うと、
一輝は又、扉を閉めた。

「わざわざごるびぃにお休みなさいを、云いに来たんだな」
 氷河は冷静に客観的に判断を下した。
「そうみたいだな」紫龍はいつも以上に微笑んだ。
「一輝もごるびぃは本当に可愛いみたいだな」

 男はごるびぃが来てから、驚くくらいにマメに家に帰っている。今までの放浪癖は何だったのだろうと、誰もが疑問を持つが、ごるびぃと仲良く遊ぶ一輝にツッコメないでいる。

瞬なぞは「あんなマイホームパパのなりそこないなんて、兄さんじゃないよ。アレは誰なの?ニセモノなの?」と、泣き出す始末である。
だが、氷河はニヤッと笑って云った。

「ま、当然といえば当然だ。俺の拾ってきた犬だからな。賢いし、カワイイし、礼儀正しいし。どうやら、あの男も少しはモノの価値が判ると見える。フッ」と、云うだけ云うと、氷河はむき出しのままになっている紫龍の胸に先程の続きを行おうとした。

「えーと、それだけか?」
「何がだ?」
 氷河がお預け食らった子犬のように目をしたので、良心が少し痛んだが、紫龍にしては珍しく主張は通すことにした。
「あっ、いや、コメントってそれだけか?」と、云ってもこの程度である。

 そして、紫龍の控えめな表現から、奥底に眠る真実に気が付けれる程、氷河は人間が出来ていなかった。
「?他に何かあるのか?」
 彼の頭にあるのは、ひたすらに続きを再開することだけである。普段だったら、このまま流されても良いが、紫龍はちょっと考えてみる。

 もし、二人の夜の生活を一輝に覗かれて、不純同性交遊で教育的始動を受けたら、氷河は紫龍の制止を振り切りダイヤモンドダストを打ちまくるだろう。下手すれば、フリージングコフィンで一輝は夏中、涼しくいられるかもしれない。

一輝だって横切るためだけに寝室を通り抜け、眠りの邪魔をされたら烈火のごとく怒るだろう。鳳翼天翔、炸裂だ。すなわち紫龍の怒りは正統なモノのはずである。しかしだ。あの二人が本当に小宇宙を応酬し始めたら、紫龍は命を賭して二人を止めるだろう。ならば自分からコトを荒立てる必要はないのでは無いか。

そこまで考えて、紫龍は初めて気が付いた。先に感情を露わにしてくれる人間が居たから自分の感情を表に出さずに済んでいたことを。そのことに気が付かず、紫龍は自分を思慮深い人間だと思いこんでいた。無知は傲慢である。その分だけ自分は他の誰よりも子供なのだ。

(・・・恥ずかしい)
そのまま黙ってしまった紫龍に今度は氷河が不安になる。
「―――どうした?」「いや、俺も心が狭いなと」

「お前が?どうして?」「些細なことが気に掛かった」
「どんなだ?」「大したこと無いから」
「俺はお前のどんな小さいことでも受け止めたいと思っているぞ」

「でも―――」今日の紫龍はいつも以上にガンコだ。
「くだらないぞ」
「俺にだけだろ。・・・だったら聞きたい」
 氷河の瞳はいつもと同じ深い深い青を称えている。ああ、いつもこの青い瞳に負けてしまうのだ。そして、素直にそれを認められる自分を嬉しく思う。

 本当に些細なことなんだがなと、前置きして紫龍は云った。
「先程の一輝、部屋に入る時にノックが無かったような気がするんだが」
「そーか、それはエチケット違反だな。明日、良く云っておく。云ってもダメか。よし、これからは寝室にチェーンを掛けよう。―――他に何かあるのか?」

「・・・いや、特には」「そうか。良かった」
そうして、やはり何事もなかったかのように続きが再開された。これ以上、何を憂う必要があるのだろうか。もちろん全てが釈然とわワケではないが、氷河の振動を受け入れていると、もうどうでも良くなってくる。

(まあ、いいか)
 コトは紫龍の願い通り、迅速に平穏に解決したのだから。ふと、横を見ると、ごるびぃが近寄ってきて、ぱたぱたとおっぽを振った。その目は同情と慈愛に満ちている。

「―――お前だけだよ、本当に判ってくれるのは」
(えへ、そんなこと無いよぉ)


 そう呟いた一言は紫龍には聞こえたとか、聞こえなかったとか。



そして、寝室編。一輝も大莫迦ですが、氷河も激アホです。ある日、紫龍に書き置き一枚で、家を出られていてもしょうがーないですね。(^▽^ケケケ。紫龍がそうしないのは、ごるびぃが居るからですね。うーん、人生の苦みを端的に表したSSですね。ガンバレ、紫龍とエールを送らずにいられません。とーゆか、ごるびぃモロゾフ4世、魔性の女っす。だって、一輝も氷河を骨抜きにし、紫龍を困らせるなんて、今まで誰にも出来ないことだったんですから。人、これを犬のゲボクという。
 ちなみにもう少し後になると思いますが、続きはあります。性懲りもなく。もし、見かけたら、よろしくお願い致します。<(_ _)> 

なんでこれに純子さんのコメントが付かないかというと、
電脳公主の方で飾っていたからです。違いが段々、それ位に
なっていった・・・。

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