ノックが二つ鳴った後、遠慮がちに扉は開いたが、
いつものようにほうじ茶を置いた後の発言は、的確でシビアなものだった。

「まだ、採点終わらないんですか?先生」
「・・・家じゃ先生ってのは止めろって云っただろうが」
「では、おじさま」
「だから、その“おじさま”も止めろよ」

 確かにシュラは紫龍の叔父で、女医の母親が留守がちの彼の面倒も看ている。
もちろん、それだけの関係だったら、名前で呼ばせはしない。
「まあ、恥ずかしいのは判るけどなあ」

「そんなことより、化学だけですよ、学期末テスト返ってきてないの。
無理して記述問題、増やすからです。
だから、余計に採点に時間が掛かるんじゃないんですか?」

「すねかじりのガキどもにいい目を見せてやる謂われがないからな」
「時間が無かったから、適当に作ったくせに」
反論できるはずもない。

なにせベットで裸の恋人の体を抱きしめながら、徹夜で時計と
睨めっこしながら作ったというゲンバまでしっかり見られていたのだから。
それでもシュラは諦めが悪かった。

何だかんだと年下の恋人が自分に甘いことを知っている。
「優秀なアシスタントが居ると思うとついな」
 だが、シュラの甘い希望は本人によってあっさり砕かれた。

「今回は手伝えませんよ」「何で?」
「氷河にバレそうになったんですよ、前回。この採点って紫龍がしているのかって?」
 氷河というのは留学生であった。

そして、学級委員の紫龍は必然的に彼の面倒を看ることになった。
おまけに不自由の日本語のせいで赤点が多く、生活全般だけではなく、
勉強の方も世話する羽目に陥ったが、

それだけで一緒にいる機会が恋人よりも増えたのではなかった。
ウマがあうというか、勉強や日本文化に慣れないせいで
紫龍に迷惑を掛けるが、他の点では気を遣わせなかった。

氷河と居ることで紫龍は自分が今までムリをして笑っていたのだと知った。
彼にはそんな虚飾は通じなかった。
何時間でも無口なままで居られて、それが自分でも心地良かった。

新しい発見だった。
自分以外の人間を認め、友情の念を深めていくと云うことは、
学舎において学問をするというのと同等、
それ以上の価値があるといっても良い。

シュラも教師としてそのことは理解している。
が、だからといって、友情は○とか×とか
点数の数字だけで筆跡の違いを見抜いてしまうモノなのだろうか。

「見抜いたんです」紫龍は深く考えずに答えた。
「氷河はそうゆう奴なんです」
「・・・野生のカンなのか、侮れん」

「そうゆうワケですから、今回は先生、頑張って下さい」
優等生は無情にもそう云いきる。
「では、お先に失礼いたします。お休みなさい」

と、深々と頭を下げた紫龍の腕をシュラはきちっと捕らえた。
「・・・・帰るのか?」
「居たら、邪魔になるだけですから」

「でも、帰りたくないんだろ」
「そんなこと全然、ありませんよおーだ」
 本気でそれが判るから余計に帰したくなくなる。

「えっ?」
 身体を引っ張られるだけでは、まだ何が起こるか判らない
紫龍をそのまま固く抱き寄せて、シュラは執拗な口付けを繰り返した。

―――本当は一度だけで離して遣るつもりだったが、
思いの外に柔らかい唇に触れただけでシュラの抑えが効かなくなる。
やっとのことで紫龍はシュラの包容から抜け出したが、

それだけで力を無くしていた。机で体を支えているのが、精一杯であった。
「・・・せんせぃ」
「何だ?」

 教師は生徒の綿のズボンを剥ぎ取った。
必要なお尻の部分だけを下ろす。脱ぎきらない部分は足首の所で絡んで、
足枷になった。そうやって自由を奪った身体を机に支えさせ、シュラは囁く。

「俺の○の付け方、教えてやろうか?」
「何を云っているんですか?」
「つまり、アレだろ。俺の○の付け方を覚えればそれで問題ないんだろ」

「話が―――」
 そう五月蠅い口を塞ぎながら、シュラは早速レクチャーを開始した。
「コレが○」脇腹の周りに指で円が描かれる。

「ちょっと、シュラ、あんn・・・」
「もっと教えて欲しいか?」
 紫龍が答えられないことをイイコトにシュラはすでに桃色に色づいている

円が描かれている所をなぞってみた。右と左をちゃんとまんべん無く。
一通りの学習が済むとそのまま復習に入る。
学習は繰り返すことによって身に叩き込ませることが出来るのだ。

「じゃあ、そろそろ×の使い方も教えて欲しいか?」
 シュラは手早く指をローションで濡らすと、指を入れる。そう云って
紫龍の中で大きく×を描く。

何度でも繰り返しいくと、腰の方が勝手に動き始める。
「少しは上達したようだな」
 だが、返事は恋人達の睦みごとから程遠いものであった。

「採点・・・まだ終わってないんじゃないですか?」
「まあな」
「だったら、―――あっ」

 シュラは更に自信を奥深くに差し込みながら、冷たく答えた。
「忙しいから、ここでな」
「ちょっと、ここでって・・・、あんっ、やっ」

 これ以上は紫龍に快感以上の強烈な痛みを伴わせることは判っているが、
シュラは止められなかった。理性の歯止めが利かない位に
溺れているのは本当は自分の方かもしれない。

「・・・シュラぁ」
 全てを手放した紫龍がやっと男の名前を呼んでくる。
強情な甥はSexで快感を感じないと恋人に戻ってくれない。

イヤ、やっと二人きりになったことを実感して自分をさらけだせるのだろうか、
束縛から抜け出して自由にただのシュラと紫龍に戻れるのだろうか。

シュラが半ばムリに紫龍をその気にさせるのは、
素直に自分を甘える紫龍が見たいからなのだが、
本人は気が付いていないだろう。

「あっっん」
紫龍は一声大きく啼くと、耐えきれないのか机の上に爪を立てた。びりっと。



・・・百点が付いた答案用紙を受け取った氷河は席に戻ってもテストを見つめ、
微動だにしないのにじれて紫龍から話しかけた。
シュラには余り氷河に近付かないように云われているが、

この危なっかしい転校生は学級委員として放っておけないし、
何よりまっすぐな氷河が不正を正そうとして、
シュラと言い争いになったら全てが水泡に帰す。

「どうした?点数の付け方でも間違っていたか?」
と、云ってみが自分の空々しさは百も承知だった。

全てが終わった後、紫龍の手の中に在ったボロボロの答案用紙が
氷河のモノであったのは運が良かったのか、地獄からの招待状か。
ともかく最中に爪を立て、丸めてしまい、

修繕の為にセロハンテープでつぎはぎした穴だらけのテストの
不自然さを誤魔化す為にシュラは百点という点数を付けざる得なかった。

云わば口止め料の一種なのだが、独特の世界観を持つ少年に
それが通じるのだろうか。
だが、空欄さえ丸がしっかりと付いている場所を見つめながら、氷河は云った。

「ああ、それは何も書かないと云うことが解答なのだろう。シュラも奥深い問題を作る」
 紫龍は今まで日本語が不得手の為に追試が多いと思っていたが、
国語の以前に常識を教えなければならないと初めて悟る。

「・・・・じゃあ、他に何があるのか?」
「いや、大したことではないのだが・・・」
 くんと氷河が鼻を鳴らした。いつもの無表情のママで。

「この答案用紙、お前の匂いがするのだが・・・」
「・・・・気のせいじゃないのか?」
 自分でもびっくりする位すらすらとそう云えたのはシュラと付き合うことで
少しは根性が座ってきたというか、図太くなれたらしい。

―――少しだけなので、やはり心臓は早鐘を鳴らし続けているが。
「そうだな。シュラもそう云ったし」
 氷河は素直に信じたらしい。深々と頭を下げた。

「何にしても百点を取れたのは、お前のオカゲだ。ありがとう」
 これは放課後、時間を割いて勉強を教えて上げたからだと受け取ることにした。
氷河はウソを付けない。紫龍が最も彼を信頼している美点だ。

そして、嘘つきな大人に笑顔を返しながら、当分の間、絶対にさせないと決意する。


―――ウソになっちゃうかもしれないけどね。


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