何度目かの体を引き裂かれる痛みに、紫龍は彷徨っていた手を握り締める。
何かに縋りつきたい所だが、一本の楔で宙に浮いている体ではそれもままならず、
結局、口に付いてくるのは恥ずかしいだけの悲鳴の羅列であった。

「ああっ、いやぁ」
「何がイヤなんだ?」そう聞き返したのは意地悪とか、焦らすための行為ではない。
ただ、思ったことが素直に口から出たのだ。

彼は生まれながらの王さまなだけなのだ。
 そして、教皇は冠を抱くものの高貴さで、ころがったまま、
上に跨がる紫龍に命令を課す。

「もっとよく動かないと気持ち良くならないぞ」
 そうは云われても内壁さえ突き破ろうとする、それの痛みに耐えるのが
紫龍には精一杯であった。

「あふぅ。教皇」
「そうじゃなくて、名前を呼んでごらん。お前だけが知っている私の名前を」
「―――ああんん」朦朧としている意識でも、云われている意味は判る。
そして、それがタブーであることも。

「云わないと最後まで出してやんないぞ」
 なのに、誘惑に負けるのは自分の意志の弱さなのだろうか。
「てんああ、サ」

「────でぃーぷ・さぶまーじゅ」
と、紫龍が最後の瞬間を通り抜けしようとするのと、
少女の持っていたバケツの水が炸裂したのはほぼ同時であった。
したたる水に何が起きたか理解するより、怒号が飛んだ。

「何やっているのよ、貴方たち」「愛の営み」
「そんな見て判ること聞いてんじゃないの。明日はね、降臨祭よ。
年に一度、全ての聖闘士が聖域に集まり、有難い教皇の訓示に耳を傾け、

女神に忠誠を誓い、次代の聖闘士に希望を託し、一年間の労をねぎらい、
ふるまわれるワインと料理。そして、開かれるくす玉にはアテナのシンボル
のフクロウが飛びかう聖なる儀式。何よりあたしの誕生日なのよ。

その究極のヒロインを無視していいと思っているの、貴方たちは」
「―――お嬢さん、ごめんね」と、紫龍が心からそう思っても、
まだ繋がったままであるならば、何の意味もなさない。それ所か、

「何だ?お前も交じりたいのか?」
「だから、あたしは処女伸だって、云ってるんだろうが。
───しゃいん・あくあ・らぷそでぃ」
 バケツを二つ持っていて心から良かったと思う少女であった。



「大体、紫龍が甘やかしすぎなのよ」
と、シリアルをほおばりながら小さな女神はのたまう。
「教皇は女神が本当に地上に降臨するまで、地上を守る代行人であると共に、
女神に忠誠を誓う高潔な魂なのよ。

そりゃあ降臨祭、当日はちちくりあいが出来ないからって、一晩中やりどうす?
こんなの教皇だから10年前みたいに、
あたしの命を狙うたわけ者が出てくるのよ。要するにたるんでいるの」

「ですけど、お嬢さん」先刻の醜態を微塵も感じさせず、紫龍は優しく女神を窘める。
ちなみに、お嬢さんは正しい忌み名を隠さなくてはならない、彼女の通称である。
「確かに明日は降臨祭なんですけど、
それと同時にサガが教皇に任命された日でもありますから・・・」

「降臨祭で各聖闘士の任命があるんだから、そんなの当たり前でしょう」
「そうなんですけど」と、云いかけて言葉を探しあぐねている紫龍の目が凍り付いた。
どうしたのと、その視線の方向を向いたお嬢さんの顎も下がってしまった。

「見ろ、見ろ、ミロのビーナス!」と、下らない洒落を云いながら、
バスタオル一枚に身を包んだ教皇が、ぱかっと布を手から離す。
「なのに、ほーら、テントが建ってる!!」
「・・・・・」
「ばっかやろう」と、コップの中のミルクが教皇に炸裂される。

「朝っぱらから見苦しいもの見せないで頂戴っ。この変態っっ」
「見苦しいってなあ、紫龍はそんなこと一言も云わないぞぉ」
「どーでも、いいから早くそれをしまってよ」
と、喚き立てる少女の目がさらに丸になった。

「―――はい」と、その命に素直に従った紫龍は素直にそれを口に含んだ。
沈黙のなか、それを啜る老獪な音だけが響き渡った。
「―――どうして、朝からそんな小汚いものしゃぶれるのよ」
「───そりゃあ、愛しているからだよ」   

「だって、勃っていたらしまいにくいでしょうが。それが仕事ですから」
 液まで全部、飲み干した紫龍がそうきっぱり言い放った。
「教皇のお世話をする、それがルシフェルの仕事ですから」

 その言葉にお嬢さんはぎょっと教皇を見つめる。
「ルシフェルって・・・、仕事って・・・。私のことを愛していないのか?」
ぽろぽろと零れ落ちる涙はどうやら気が付いていないようだった。

 本来なら教皇の付き人をこの地上の神の代行人を手助けするものとして、
彼らは天使と呼ばれる。教皇が聖域の表なら、その生活の一切を面倒を見る
影といっても差し支えはない。教皇の素顔を知る女神ともう一つの存在。

 だが、紫龍はいつのまにかその場に伸し上がっていた。
誰も彼がどうして天使に成れたか知らない。
彼のせいでお払い箱になった前任の天使も姿を消したままだ。
もしかしたら、彼が殺してしまったのかもしれない。自分が天使に成るために。

そんな噂さえ流布される故に彼には汚れた天使の名がそこに刻まれるのである。
高潔な教皇をたぶらかす存在としての堕天使、ルシフェル。紫龍の蔑称である。
(やっぱり、知らないと思っていたけど、本当に知らなかったのね)

「―――紫龍」
と、決壊が壊れて氾濫を起こした川に黒い天使が頬にそっと手を寄せる。
「大好きですよ。でも、ちゃんと着替えて、お仕事なさってくれたら、もっと好きです」
「そうですとも、教皇」何処から飛び出してきたのか、真っ赤なバラの花びらの嵐。

ああ、一体、誰が掃除するんだろう。
「さあさあ、今日は予行といえど降臨祭。年に一度の大イベント。
不祥ながらこのアフロディーテがお召かえを手伝わせていただきますわ。
こんなルシ公なんかより私の方がすっとセンスがようございますから」

と、まだ状況が良く掴めていない教皇の背中を押しながら、
アフロディーテは嬉々として衣装部屋に向かう。
もちろん、紫龍に巨大なあっかんべをするコトを忘れない。

 そして、漸く朝の爽やかな秩序と静けさを取り戻した部屋で、
女神は小さなため息を付いた。
「アフロディーテって、教皇の間に一番近いからピスケスの聖闘士になったって、
本当かもね」

「誰も産み月を選べないと思うけど、あの人だったらやりかねないかも」
「でも、いい年こいた大人のすることじゃないわよね。
あっ、あの人、おかまだからいいのか」
 今も箒とちりとりを用意しなくてはいけないと困った存在であるには変わりないが、
あの暴君にはいい薬かもしれない。

おかげで教皇が居ては出来ない大人の会話が出来るというものだ。
「ねえ、紫龍」
「何ですか、お嬢さん」と、いつもと丸きり変わらない様子にちょっと気が引けたが、
思い切って口火を切る。

「ねえ、さっきの話って本当?」
「さっきの話しって?」
「ほら、お仕事だからあの莫迦に仕えているって。
でも、紫龍ってルシフェルになるために聖闘士になることを捨てたんでしょう」

「───何処から聞いたの、そんな話?」   
「知らないのはこの聖域で最も清らかで最も高潔な魂くらいよ。
まあ、あたしは信じちゃいないけどね」

 愛しているからなんて、サガみたいな甘いことは思ってもいなかったが、
この献身的な態度、全てが仕事とも考えられない。
 そして、少女はこの目の前の少年のコトを何も知らないということに、
改めて気が付くのであった。

「じゃあ、お嬢さんは何のために俺が此処に居ると思う?」
「正義の為じゃないの?」
「外れ」間髪入れずに紫龍はそう告げる。まるでどんな答えも本当ではないように。

それから、―――教皇はおそらく気が付いていないだろう。
なぜなら紫龍が彼に見せる微笑みはいつでも明るく慈愛に満ちた、
まるでフォトスタンドのようにいつも一緒だからだ
────少しだけ涙に近い微笑みを浮かべて、紫龍は云った。

「お嬢さん、そろそろ学校に行かなくていいの?」
「あら、やだっ」と、時計を見ればもう8時を回っている。
時空の扉を駆け抜ければ、学校はすぐそこなのだが、
レディとして息を切らして登校するのは避けたい事態である。

「あっ、そうだ。今日、少し遅くなると思うから」
「どうかしたんですか?」
「パパとママも死んじゃって、遺産目当てで引き取った伯父さん夫婦は
朝と晩と小間使い代わりに働かせて、挙げ句にご飯にトリカブトが、
入っているって云ったら、可哀相ねって学校の子がマクドナルドで
誕生パーティをしてくれるって」

「───お嬢さん。誰が朝、晩とこきつかって、挙げ句にご飯に毒を洩るって?」
「だって、それ位云っておかないと、家なき子に負けちゃいそうなんだもん。
それに似たようなもんじゃない?」
と、云われると何も言い換えせない紫龍である。
どちらにしろ少女の望むものは与えられないのだ。ごめんねと囁く紫龍に、

「嘘よ。聖域の方が安全だからって、間抜けなこと抜かして、
あたしを閉じこめている教皇に内緒に学校に行かしてもらっているだけで、
有り難いと思っているわ。その代わり誕生プレゼントは別だからね。
奮発してよ。あたし、ダイヤモンドのピアスがいいな」

「お嬢さん、まだ小学生でしょう。早すぎませんか?」
「四捨五入すればティーンよ。、あたし。それにちびうさちゃんだって持っているもの」
「その人、お友達なの?」

 例えばこんな時だ。こんな年上の人が可愛く思えて、
守って上げたいなんて保護欲さえ沸き上がるのは。
「本当、いつまでもそのままで居てね。じゃあ、行ってきます」
と、ほっぺに口付けを残し、赤いランドセルがかたかたと、消えていく。

 その背中に手を振りながら、やがて少女が完全に消え去ると、
紫龍は大きく息を洩らした。
(───正義の為ね)と、少女の先程の言葉を反復してみる。
 本当にそうならば、どんなにいいだろう。




「誰も助けになんか来てくれないよ」
 大理石の上をぺたぺたと血の交じった足音が聞こえる。冷たい手は、
紫龍の引きつった顔を持ち上げ、まだ、莟にも満たないそれを荒々しく貪る。
 仮面はとうに外されていた。月のない夜の浮かび上がるもう一つの月。

「―――いやっ」               
「───嘘付きだね。本当はこうされるのが、気持ちいいんだろう」
 小さく萎縮しているソレを口で覆うと男は乱暴に吸い始める。
そうすると、啜り泣く声にほんの少しの甘さがにじみ出る。

だが、小さな紫龍の全身を満たしている恐怖心は拭えない。
 判らないのだ。この行為の意味も、何より、それがなぜ彼なのかを。
「ほら、気持ち良くなってきただろう。でも、可哀相に。
───お前はもう聖闘士に成れないんだから」

「助けて」
その悲鳴を男は大きな手のひらで押さえ込む。 野獣のような真っ赤な瞳。
 闇が覆い被さる、まだ、何も知らないそこに男はいきり立った自分を詰め込んだ。
「───あぐっ。助け、て──」       

「大丈夫、もう、恐いことなんて何もないんだよ。
賢いお前のことだから、本当は判ってしまったのだろう。
この世に美しい物なんて何もない。だって、女神は───」          





 紫龍と呼ぶ声に瞳を開くと、自分の体に覆い被さっている氷河の姿があった。
「何をやっているんだ、こんな所で?」
「それはこっちの台詞だ、紫龍」と、蒼い月が冷たい光を放っている。

「人のベットの上で何をやっているんだ?」
「────あっ。すまない、氷河」と、紫龍は慌てて起き上がろうとする。
「此処が静かで涼しくて一番、落ち着くから、つい・・・」

「の割りにはうなされていたぞ」
と、額に口付けをすれば、そこに玉の汗が滲んでいる。
「───悪い夢でも見たのか?」       
「いいや」

「本当だ」と、白いシャツをべろりとめくりながら、
氷河は素直にその紫色に変色した痕を辿ってみたりする。
「これじゃあ、眠れないよなあ」

「───て、氷河っ」と、叱咤の声も本気でないと知っていれば、
甘い嬌声にしか聞こえない。
「何だ?」と、いつものように長い髪に指をからめながら、手触りを楽しみ、
いい匂いのするそこに鼻を押しつけ、それから唇を奪う。

 始めは堅く結ばれていた薄いピンク色が氷河を受け入れ始めるのに、
そう時間は懸からなかった。そうやって、一頻り唇で遊んだ後、
紫龍が思い出したように云った。

「お前、降臨祭の予行の方はどうしたんだ?」
「うん、ふけてきた」「ふけたって……」
「ブロンズなんて直接、関係ないだろう」
と、清々しい位、きっぱりと言い切る氷河であった。

「頭、合わせで、訓示聞いているだけだし、暑かったし、
お前、居ないし、な」と、口付けをせがむ氷河にこれみよがしにため息を付く。
「お前がそんなんだから、カミュの視線が冷たいんだよなあ」
「えっ?そうなのか」

「───そうなの。まあ、俺だって自分の大事な奴が悪い奴と付き合って
称号を剥脱されたら、そいつのこと殺すかもしれないから、しょうがないと
思うけどって、────聞いているのか?」 

「うん」と、大きく頷く氷河に紫龍はカミュの苦労を改めて知る。
だからこそ過剰と云うほどに、弟子を守ろうとする母性本能のようなものが、
働くのであろう。莫迦な子ほど可愛いとは実にありがたい言葉である。

「何?」と、まだ胸を彷徨わせる氷河の手をぴしゃりとやる。
「だから、お前、ブロンズの分際で他人と体を合わせたら、
どうなるか判っているだろう?」

「女神への奉仕を怠り、女神の愛する少年の美しい素肌を汚した聖闘士
としてのあるまじき行為の贖罪は、冠位剥脱、聖域追放、
あげく堕天使の烙印が押されるんだよな。もし、見つかればな。 
───ああ、早く黄金聖闘士になりたいなあ」 

「────それも違うぞ、氷河」頭、痛くなってきた。
「彼らが体を交えることを許されるのは、その行為によって、
自分の精神を高め、小宇宙の交遊が出来るからだ。
ブロンズじゃ同じコトでも、温もりに溺れて堕落するのがオチだからな」

「何処ぞの宗教みたいだな」
「そう思っていても口にしないのが、大人の優しさってもんだろ」
「だから、よーはばれなきゃいいんだろうが」

「何でそうなる!!」と、いう問いは氷河の唇の中に吸い込まれる。
目の前のには不謹慎な位、真摯な青い瞳。
「大丈夫だ」と、氷河の手がゆっくりと紫龍の肩を抱きしめる。
「ゴムを使えば絶対、平気」

「──── 」絶対、そうゆう問題じゃない。
 そんなことは判っているのに、麻酔を掛けられたみたいに体が動かない。
「────あっ、お前、何かしただろう」   
「ミロにスカーレット・ニードルをちろっと習ってみたんだ。結構、効くもんだな」

「この大莫迦野郎」と、威勢だけではいいが、
このままではどう料理されても文句は云えない。「ほどけっ」
「ウソ。結構、喜んでいるだろ。こーゆーシツエーション」

「SMなんかする理由ないだろうが」
「じゃあ、俺が一番、最初だな」「ド阿呆」
「───阿呆でもお前となら、地獄に落ちてもいいと思っているぞ」
氷の結晶と云われる氷河のブルー・アイがほんの少し和らぐ。

瞬間、魔法のように紫龍の体から力が抜ける。
幼い、あの老師の元に居れたあの幸せの時間。一番、近くに居た金髪の少年。
同じ季節を何度繰り返したか。ずっとこのままで居たいと願ったあの頃の夢が今、
目の前にある。だからこそ、紫龍は云わなくてはならなかった。

「────氷河。でも、まだ駄目だよ。お前には光の道を歩いて欲しいから」
「・・・紫龍」そのままどうすることも出来ずに、佇む2人に救いの声が現れた。
「───すたっぷっ。君たちは一体、何をしているんだ。しかもこんな時間に」

 なぜ、人は見れば判ってしまうことを、答えさせようとするのか。
あっ、でも時間は判らないから、腕時計を見てやろう。
「十一時だろ」と、腕時計を見ながら氷河は平然と答えた。

「えっ、嘘」と、その言葉に簡単に呪縛が解けた黒い髪は、
もう脱がされた物を身に纏っている。
「やだっ」「どうした、紫龍?」

「だって、まだお弁当を作ってないから。───じゃあね、氷河」
軽いキッスをを氷河の頬に送るとあっという間に紫龍は消えてしまう。
────つまらんと、寝なおそうとすると、ミロと、目があった。
「お前、自分の立場、判ってんのか?」

 氷河は答える必要もなく、タオルケットに包まる。
 こうあからさまに無視されると、自分は黄金聖闘士で、お前より偉いんだぞとか、
お前の大事なカミュの親友なんだぞといったアイアンデティーが
ぐらぐらと音を発てていくが、それでも年上として忠告はしなくてはならなかった。

「だって、あいつだろうが。聖闘士に成れなかったから、
体を使って教皇に押し迫ってルシフェルになって、で、教皇がめろめろなのを
いい事に、裏で好き放題、男をひっかえとっかえってしている奴って・・・・・」
「ミロはそれを見たことがあるんですか?」

「えっ、いや、ないけど・・・。でもな」と、言い掛けた言葉を視線で凍り付けにし、
氷河は続ける。
「ミロは6才で、青銅聖闘士の称号を手に入れようと幻の聖闘士のコトを
知っているか?」

「老師の手中の玉で、冥界の護り手の後継とも云われた天才少年だろ。
アイオロスの事件でごたごたしていて、その年の降臨祭自体がぽしゃったから、
先送りになっちゃったが、────そう云えば最近、聞かないなあ」

「それがあいつのことなんですよ」
「・・・でも、昔のことなんだろ」
「今もですよ、ミロ」氷河は冷たく言い放つ。

「あいつの小宇宙は地球色の優しい綺麗な青い小宇宙で
俺なんかよりよっぽど聖闘士に向いている」
「じゃあ、何でわざわざルシフェルなんてやってるんだろうな」
「さあ」と、答えたのはミロの好奇心から抜け出すためではなかった。

 10年前、自分より一足先にブロンズの聖衣を手に入れるために、
五老峰を離れた彼は2度とそこに戻って来なかった。
 彼の師に問いただしても、ただ、忘れなさいと。
あの子はもう死んでしまったのだと、繰り返すだけで、取り合ってはくれなかった。

それと前後してカミュは五老行きを控え、連絡の手段は途絶えてしまった。
 けれども、あきらめた理由ではなかった。
微かに感じる紫龍の小宇宙が修業の糧となった。強くなりたかった。

もう一度、逢えたら、今度こそあいつを守ってやりたかった。
聖闘士になるのは、そのための手段であった。
そうやって、漸く手に入れたキグナスの聖衣によって、再会はなされた。

聖衣を教皇から手渡してもらう、降臨祭の中に組み込まれた認証の儀式で。
偶然、垣間見た教皇の傍らに影のように寄り添う紫龍の姿。
綺麗に成ったと思った。いや、初め見た時はそれこそが、
女神の具現した姿だと思った。だが、

───おめでとう、氷河。そう云って固い握手が次の瞬間に解かれた。
 でも、さようならと。もう、俺は昔の俺ではないから、近付かない方が身のためだと。
 それでも無理遣り通いつめ、追い続け元の友人関係になって5年。
キスが出来るように成って3年。

久しぶりに触れた唇は子供の時、戯れで触れたそれと同じ温もりがした。
変わっているところなぞ何もなかった。紫龍は紫龍だ。
ただ、綺麗に眩しくなっていくだけで────。      

「俺はねえ、ミロ。本当はあいつに初めて逢った時から、決めていた。
紫龍のために死ぬって」
「お前、それは女神の聖闘士として許されないんだぞ。反逆の思想だぞ」

「ミロは違うのか」
「ばっきゃろー、俺はな・・・・・」
「でも、カミュは見たこともない女神の方が大事なんだよな」

「そーなんだよ。俺がこんなにあいつのことを大事に思っているのにって───」
と、気が付いた時は後の祭りで、氷河はただ涼しい顔をしているだけであった。
ポーカーフェイスなんて大嫌いだとミロは思った。

「とにかく、これは内緒がいいだろうな。互いのために」
「───そうだな」             
 それにはミロも素直に同意した、そして、それだけが、
この二人を結ぶ共通項であった。


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