「全く何を考えているんですか」と、普段の礼儀正しい黒髪の彼とは思えない

強い叱責であった。

「こうなる前に云って下さい。風邪は引き始めが肝心なんですから」

「引き始めってな……」と、シュラは云った。

 何で紫龍がこんなにぷりぷりしているか、彼には判らない。

「大したことないだろうが、こんなの」

「43度ですよ。普通の人ならこんな風にしゃべれません」

「普通の人じゃないから」

「とにかく」真面目でしっかりもので通っている聖闘士は、こんな時でも変わらなか

った。

「風邪を直すのには温かくして、汗を一杯かいて寝ることですからね。

大人しくしていてください」

と、小さな子をあやすように、シュラの頭を撫でる。

「俺、出来るかぎりのことはしますから」

「……出来るかぎりね」と、シュラはそう呟いて、

サイドテーブルの上の煙草に手を延ばそうとして……、ぱしっと、それより早い紫龍

であった。

「何で?」恨めしそうに紫龍を見る。

「当たり前です」いつもよりはるかに強気の紫龍である。

「それでなくても、具合が悪いんですから」

 そうして、紫龍はバックからパジャマを差し出し、着て下さいと、云い切る。

「汗、たくさん掻いてるでしょう。

そーゆー時は着て寝た方がいいんですよ」と、

いつのまにか用意された金たらいの中の白いタオルを堅く絞る。

「さあ、大人しくしてくださいね」

と、そうにっこり微笑むと汗ばんだ体を拭き、パジャマを着せ、ストライプのそれの

ボタンを1つ1つ止める。その手をシュラが不意に掴んだ。

「お前って、やっぱり小さいな」

 紫龍が買ってきた紺色のパジャマは手が少しはみ出していて、いかにもあしらえ

物といった感じである。その言葉に紫龍は少し拗ねたようだった。

「……シュラが大きいんです。これだって、日本じゃ大き目のサイズなんですから」

「西洋人と東洋人じゃ、基本的な体躯が違うからな」

「それだけじゃないと思いますけど」と、紫龍は答えた。

 この鍛えられた肉体が、ただの遺伝子の結果だとしたら、少し物哀しいものがあ

る。それでなくても、聖域に住む人間は紫龍より頭、1つも2つも大きい人々が多い

のだから。手の平を合わせると二周りも違う。

 コンプレックスと云うほどの物でもないが、多分、一生縮まらない身長差は少し、

口惜しいものがある。

「でも、俺はそれくらいの方が好きだな」にべもなくシュラは云った。

「可愛いじゃないか」

「闘士が可愛くても、仕方がないでしょう」そう窘めるように云い、それを覆い隠す

ように紫龍は言葉を続けた。

「ほら、シュラ。早く休んでください。明日には直さないと……。風邪に良く効くのを

充分な睡眠と、とにかく汗をかくことなんですから……」

そうして、シュラを枕に誘導し、首の所に毛布をすっぽり被せた紫龍の手が、突如、

捕まれた。

「お前は着替えないのか?」

まだ、少し、赤い顔をしたシュラであった。

「へっ?」と、紫龍は目を丸くした。

「着替えるって……?」

「俺が眠るんだから、お前も休んだらどうだ。まさか、俺に一晩中、付いているつもり

じゃないだろう」

「ですが……」

 紫龍の頭によぎったのは、さっき見た汚い台所であった。それにいくら早寝早起き

の健康優良児とはいえ眠るには早すぎる時間である。

「じゃあ、側にいてくれないか」

 握った手をぐいと引き寄せて、シュラは耳元で囁いた。

「一緒に寝よ」

 にこっと、少し赤い顔でそう云われると、紫龍はため息をつくしかない。

誰だって風邪の時は心細いものだ。

「じゃあ、俺も着替えてきます」と、立ち上がった紫龍をシュラはもう一度、制止した。

「何でこそこそ着替えるんだ?」

「何でって……?」そうゆうことは改めて聞かれると、

大変困るのだが……、シュラは大真面目であった。

「俺はお前の裸、見たことがあるぞ」

「それは戦いの最中でしょうが」

 問題外です。と、言外に云い切る。

「だが、俺はお前に着せてもらったぞ」だから、今度は俺の番だと、シュラはえばって

いた。

「えっ、でも……」

「細かい所はともかく、がばっと脱ぐっ」

「わっ」と、慣れた手つきでボタンを外されると、

抵抗する間も与えられず、バンザイさせられた紫龍は、あっという間に裸にされる。

「ほぉー」と、その現われた白い肌に、シュラが息を洩らす。

「やっぱりお前、綺麗な肌しているんだな」

 肌の白さからいえば、アフロとかカミュなんかの方がよっぽど白いが、瑞々しいとで

も云うのだろうか。東洋人は肌理が細かいと聞いていたが、これまでとは……。

 しげしげと見つめられて、紫龍は思わず屈みこむ。

今日は何だか頬が赤く染まりぱっなしである。

「そんなに恥ずかしがらなくても」ぱさり、青いパジャマを掛けてやる。

「男どうしなんだから」

 そうして、まだ顔も上げられない紫龍を立たせて、ボタンを掛けてやろうとした

シュラのその手が、急に止まってしまった。ボタンの位置、つまりホールとボタンが

右と左が逆であった。

「……」

「男の人と女の人ってボタンの位置が逆なんです」

 シュラの困惑を察したように、紫龍が云った。

「中世の時代、女の人が着せやすいように、男の人のボタンの位置が決まったから

……」

 だから、互いに着せやすいようなボタンの位置なんですと、紫龍は告げた。

「その割りにはお前、慣れてたな」

「そうですか?」

「そうだよ」そう云いながら、よっこいしょと、紫龍を膝の上の乗せる。

「まあ、でも、こうすれば俺でも遣りやすいんだな」

「シュ、シュラっ……」

「ほら、じっとして」ばたばたと起き上がろうとする紫龍の首筋に接吻を送りながら、

シュラは今度こそ器用に、ボタンを掛けようとした。

 だが、後から、しかもプラスチックの小さなボタンである。シュラの大きな手には

余るそれに、手の動きはぎこちなく、あっちの方に行ったり、行きすぎたりと、

一所でじっとしてくれない。そのくすぐったさが、もどかしい。

「おやっ」シュラの洩らした吐息が耳を掠めた。

「結構、難しいな、これ」耳元で真剣に囁かれるそれは、紫龍には揶揄するようにも

聞こえる。何だか恥ずかしくなって逃げだしたくなる。が、がっちり押さえこまれ、

それもままならない。

「……シュラっっ」

「何だ?」しかし、ネコのようにじゃれることに夢中になっている

シュラには判ってもらえないようだった。仕方なく紫龍は両手で導いて、ボタンに手

を掛けさせる。一つ一つ丁寧に掛けられていく度に、紫龍は何だか力が抜けていく

ようだった。最後のボタンが掛けられようとした

時、シュラが突然、云った。

「……飽きたな」




と、いう感じでどんどんいかがわしくなっていきますねえ。
この後、どうなっちゃうんでしょうねえ。
おっさん、43度の熱はどうしたんだい、というつっこみはさておいて、
さあ、引き返すなら、今ですよ、お客さん。
最後の分かれ道です。


       
無かったことにする         後悔は後でする 









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